賃貸屋の朴 6

探偵日記 8月6日火曜日晴れ

ネコのトイレの砂が無いので車で出た時買っておいて。と言われたのを思い出し、見るともう少ししか無いので車で出た。ペットのコジマで購入し事務所へ。今日は比較的過ごしやすい。NHKのニュースでそんな予報を言っていたが、朝4時半の外気はム~とした感じだった。今調査中のマルヒがゴルフに行っているらしい。暑いのにご苦労さんと言いたいが、明日は僕もその予定である。驚くことに、誘ってくれたのは、言いだしっぺが御年76歳の女性。あとは、79歳及び71歳の男性。大丈夫かな~と、いささか心配になる。

賃貸屋の朴 6

主犯格の朴は会社はあるものの、代表の本人を含めいずれも所在不明。調査のしようもない有様で、仲介業者などの実態は明らかになったものの(詐欺)について確固たる証拠が掴めない。警察が本腰を入れてくれれば何とかなりそうなものだが、(民事不介入)を建前に告訴状の受理を渋っていると言う。何時ものことだが犬鳴は思う。買主の地主はともかく、買主側の仲介業者が前もって、犬鳴探偵事務所に10万円でも払って調査依頼をしていたならば、防御出来た被害である。たったの、と言うと不謹慎だが、2億5000万円からみれば10万円など微々たる経費であろう。勿論税務署だって必要経費として100パーセント認めてくれる。忙しさにかまけて、或いは慢心があったのか。

数日して、犬鳴が新規の依頼人と会うため、新宿駅西口のルノアールに行くと、喫煙席の隅のほうで、初老の男性と大声で笑い合いながらコーヒーを飲んでいるKを見かけた。この店は広く、禁煙席に居る犬鳴のことはKには見えなかった。犬鳴は何となく胸騒ぎがして事務所に電話をかける。調査員に(今俺は西口のルノアールにいるんだけどすぐ来てくれ)と指示し、駆けつけた二人の調査員にKらを確認させ、初老の男性の尾行を命じた。

2時間後、調査員の一人から報告が入り、ターゲットは新大久保のマンションに入ったという。翌日から初老の男性をターゲットに調査を開始。やがて同人が「朴」であることが判明した。朴は、(賃貸屋の朴)と渾名されているが、一方で、変則的な手法を駆使することでも有名な男だった。長年不動産業に携わってきたKは百も承知だったはずである。その証拠に、被害者の若社長に「朴本人が来なければ絶対契約をしてはならない」と忠告している。これで、Kは安全圏に逃れることが出来たはずである。犬鳴にも「僕は道義的責任がある。何とか若社長を助けてやって欲しい」とも言っていた。もしこの日、もう少し時間があって、朴とKの会話を録音できていたならどうだっただろうか。若社長のことを(バカ社長)呼わばりして大笑いしていたのではなかろうか。

本件が中途半端な形で終了した1ヵ月後、再びKから電話がかかり(調査依頼したい人を紹介する)と言う。断る理由も無いので出向いてみると、今度は八王子の不動産業者だった。調査の相手は豊島区内に住む老女で、その老女が所有するアパートを買い取る約束で書類を交わし代金のあらかたを支払ったが、(そんな契約はしていない)と老女に言われ困っているという。K曰く「いや~あのばばあ半端じゃない。僕も紹介した道義的責任があるので、犬鳴君何とか力を貸してあげてください」と。-----------(了)