平成不倫考 3

探偵日記 2月4日火曜日氷雨

昨夜は23時頃帰宅したがもう気温がかなり下がっていた。今朝は予報どおり雨、次第に雪に変わるとか、出かける時には霙交じりの氷雨になっていた。こんな日はベッドで妄想に耽っていたいのだけれど、そうもいかないと思いなおし事務所へ。朝、食事をしながらテレビを見ると札幌で起きた(小学3年生の女児行方不明)事件が解決した報道で持ちきりだった。元気で発見されて何よりだったが、このような犯罪は必ずといって良いほど、その後模倣犯が現われる。しかし、この26歳の男は仕事もせず親が所有するアパートに住んでいるようだが、日々の生活費も親掛かりなのだろう。ダメ親父の僕が言うのもなんだが、親の責任も問われてしかるべき状況に思える。妻は(こんな人死刑になればいい)なんて乱暴なことを言っていたが、裁く法律に限界があり僅かな刑期で出てくるだろう。もしかしたら執行猶予がつくかもしれない。しかし、今度は親も学習しただろうから彼の行動を監視するはずだ。
ニュースでこんな事件を聞くたびに思うが、多少出来が悪くても五体満足に生まれ、常識的な範囲で社会性を備えているわが子で良かった。親心も複雑で、大きな期待を放棄した頃からそんな気持ちで子らを見る。

平成不倫考 3

バブルの末期の頃、僕が出入する会社にSという地上げ屋さんがあった。束の間隆盛を誇ったが、あっという間に衰退し、資金繰りに苦しむ最中、社長があっけなく突然死してしまった。まだ社長が元気だった時の話。その会社の総務部長のMから「ちょっと相談したい」という電話があり西武新宿駅のプリンスホテルで面談した。MとはS社長を交え日曜日毎にゴルフに行き、歌舞伎町を飲み歩くほどの仲だったが、正直なところ僕の嫌いなタイプだった。だいたい、営業が花形の地上げ会社の総務部長など、不要な存在だと僕は思っていた。Mはお調子者で社長のゴマをするだけでかろうじて存在感を保っていた。前職も地上げ屋さんで、やはりデスクにしがみついていた。その会社で、新しく入ってきた女子社員と不倫関係になったことは噂で聞いていた。相談とはそのことだった。

「いや~まいったよ。同棲している彼女に男が出来たみたいなんだ。僕は妻と別れて彼女と結婚するつもりだったけど、実家に帰ったきり戻ってこないんだ」と言う。二人の噂を聞いてから3~4年経っていたから、(必ず妻と離婚して君と一緒になる)と言い続け数年経ったことになる。そのあと、Mは、洋服も買ってやったとか、旅行にも連れて行ったとか、聞くに堪えない愚痴を山のように言って、終いには泣き出した。浅黒い顔に太い眉、パンチパーマで身長も175センチ位ある偉丈夫が、女に逃げられそうになって年下の探偵に泣きついている。僕は(あ~こりゃダメだ)と思ったが、何しろ取引先の部長さんである。無碍にも出来ない。Mは、実家の周辺をうろつき警察を呼ばれたりしている。今で言う立派なストーカーだ。

「友達料金で安くしてよ」というMと別れ翌日から調査に着手した。------------