探偵日記 2月5日水曜日快晴
昨日とうって変わりすっきりとした好天気。ただ、気温は低く外に出るとキーンと感じるような冷たさだ。それでも、今日は早く行かなければならない日なので、10時過ぎに事務所へ。すでに出社していた所長と、今朝早く、去年行った調査のリピートから僕の携帯にかかってきた案件について打ち合わせする。
平成不倫考 4
不倫相手の女性の実家は世田谷区成城。高級住宅の建ち並ぶ一角にその家はあった。午前7時張り込み開始。新宿の会社に勤務しているというから十分な時間設定である。しかし、10時を過ぎてもマルヒは出てこない。調査員から(どうしましょうか)と電話が入る。(それじゃあ一旦引き上げて、夕方、勤務先からやろう)と指示し、今度は事務所近くのビルの前で、午後4時半張り込みを開始する。待つこと1時間と少々、5時17分にマルヒがエレベーターから吐き出された大勢の人たちに交じって出てきた。女優にしたいぐらいの素晴らしい美人。僕は4年前依頼人やマルヒが勤務していた会社内で数回すれ違っていたので、記憶にあったが調査員が撮影してきた写真を見て驚いた。当時に比べ数段綺麗になっていた。何も知らない良家のお嬢さんが、中年のちょい悪男にたぶらかされ、別の意味で磨きがかかったのだろうか。それにしても、出勤時間に家を出ていないという事は、昨晩は帰宅せず外泊したことになる。
マルヒは、同僚の女性とお茶したあと、一人で都庁方面に歩きだしたが何度も後ろを振り返る。依頼人が何度も尾行したらしいから警戒しているのだ。と、調査員らに伝えてある。したがって、徒歩と車両で追尾する調査員を気にとめる風はなかった。やがて、都庁を背にする道にさしかかった時、マルヒの後方から1台のAV車が接近、マルヒは素早く助手席に乗り込んだ。横浜ナンバーのその車は、山手通りを富ヶ谷方面に走り、淡島通りから世田谷通りに入り、午後7時05分、世田谷区成城5丁目のマルヒの実家近くに停車した。しばし車内で抱擁を繰り返したのち、名残惜しそうに車を下りて帰宅した。この日の尾行で交際している男性の存在、さらに、男性の自宅も割り出した。
翌日、依頼人のM部長と喫茶店で会い昨日の顛末を報告する。「やっぱり居ましたか」と、絞り出すように言い、「動かぬ証拠を掴んで下さい」とも。口にはしなかったけれど僕は思った。動かぬ証拠を掴んでどうするのだろうか。依頼人には歴とした妻が居て、確か中学生になった男の子があるはずだ。したがって、マルヒの女性と内縁関係とは言えないのではないだろうか。あくまでも(不倫)であって、お互い何をされても損害賠償の請求権は無いのではないだろうか。ただ、相手の女性からは、もしかしたら(婚約不履行)で訴えられるかもしれない。なと。ところが、このあと依頼人が練った作戦はウルトラC的なもので、僕も仰天した。
調査は順調というかあっさり終了。所要日数は延べ5日間、但し、1日の時間は大幅にかかって、5日間で、80時間を超えた。報告書にはマルヒの相手男性の身元も加え、そのページは150を超える大作となった。調査費用は、張込尾行の基本料金が、1日50,000円×5日で、250,000円。時間料金が、1時間15,000×80時間で1,200,000円。相手男性の身元調査が300,000円。これに尾行用車両の使用料金や調査実費を加え、合計2,000,000円近い請求になった。報告書を読んだあと、金額の話をすると「とても払えないから何とかしてくれ」と言う。こちらも丸々貰うつもりはなかったので、(じゃあ幾らなら払ってくれますか)と聞くと、70万円ならというので、後日、その請求書を渡した。すると、少し待ってくれと言う。(何時まで?)と聞く僕に対し、意外なことを言った。------