平成不倫考 1

探偵日記 1月31日金曜日晴れ

昨夜飲みすぎて調子が悪い。深酒が二日続くと相当堪えることを改めて痛感する。僕の酒は今の女房の手ほどきで始まったもので、元々酒に合った体質でもない。というのも、僕の家系は父方母方共に下戸の血筋である。父など、お正月のお屠蘇で寝込むほど。その弟など、なら漬を食べて(酒気帯び)で検挙されかかったらしい。もし、酒をおぼえなかったら200歳まで生きただろうに、すべて女房のせいだ。というわけで、事務所に出たのは午後になった。前編はその言い訳。自分に優しく、悪いことは全部人のせいにする。素晴らしい僕の性格。



平成不倫考 1

探偵をやっていると他人様の不倫模様を具に観察することとなる。羨ましいようなカップルも居れば、腹立たしくなる展開のカップルもある。昭和44年、探偵になって早や45年、数え切れない案件を経験し、或る時は唖然とさせられ、また或る時は心底憤ったりした。しかし、総じて言えることは(どんな場合でも女性が割を食う)と言うか哀れな状況に陥る。では、女性が総て弱いかというと、そうとは限らない。強いが故にしくじる場合もあれば、愚か故判断を誤る場合もある。それでも女性は可憐で、健気なのに、多くは可哀想な結果となってしまう。では、相手の男性はやりたいほうだいで、何のお咎めもなくその先も幸せ一杯に生きてゆけるか。というと、決してそんなことも無い。どこかで必ずしっぺ返しを食ったり、忸怩たる思いに悩むことも少なくない。

僕がまず最初に経験した、ある社長と女子事務員の不倫調査では、まさに男の天国みたいなものだった。堂々と朝帰りし、時には、自宅に連れ帰って、嫌な顔をしようものなら(気に入らないなら出て行け)と怒鳴る始末。極端な言い方をすれば、それでも妻はじっと耐えるしかないのが、当時の亭主の浮気の典型的な形だったのか。昭和も年の移ろいと共に少しづつ変化し、(黙ってばかりじゃない)妻、又は女性が台頭してきた。或いは、(そっちがそうなら私だってやってやる)実際にそうしたかはともかく、そんな主張をする妻もいた。やがてバブルとやらが日本全体を狂わせ、年号が平成に変わる頃には、妻に浮気されて探偵に泣きつく夫が現われだした。女房のそれとは異なるが、夫は、男であるが故に忍耐を強いられ(顔で笑って心で泣く)羽目になった。そんな夫に限り、これまで浮気のウの字も知らない人が多いのが実情である。

しかし、それでもいざ不倫騒動になって困るのは圧倒的に女性のほうで、探偵の僕は心して(女性の味方)という姿勢を貫き通してきた。ーーーーーーーーーーーーーーーー