探偵物語 6

探偵日記 7月8日火曜日雨のち曇り

かなり強烈な台風8号が沖縄に上陸するらしい。その後、本土を通過するとかで、すでに影響が出始め、静岡県の沿岸は高波が押し寄せ高速道路が一部通行止めになっている。何時も思うことだが、自然の脅威は計り知れず、(山と蟻の中間)とも言われる人間など逆らっても勝てるはずもない。記憶に新しい所では、伊豆の大島町の例もある。避難指示が遅れた結果大勢の人が亡くなった。気象庁も(直ちに命を守る行動を取って下さい)と、注意を呼びかけている。さもありなんである。僕など、幼少の頃、台風の去った日本海で、押し寄せる高波が浜辺に打ち寄せる瞬間に体を横にして波にのみ込まれて遊んだものだ。都会のお母さんが見たら気絶したかもしれない。泳げない子供を沖合いの海に投げ捨て、泳ぎを覚えさす。昭和の始めはまだ、そんな乱暴で無知な人たちが居た。
昨夜は、歌舞伎町のクラブに行った。なんでも、「浴衣祭り」とかで、ちょこっと顔を出し、1時間ほどで早々に引揚帰宅した。高波どころか、ネオンの輝きにも恐れをなす。体力気力共に劣化している。(笑)

探偵物語 6

午後4時半、調査員3名と共に銀座三丁目のビル前に到着。(現場に着いた)ことを会社に居るであろう依頼人に告げて張込を開始。(居る居る)ひと目で調査員と判る男性数名がビルの物陰に、或いは通行人を装って、依頼人の会社が入居するビルの正面出入り口を監視している。勿論普通の人には判らないだろう。僕も、依頼を受けていなければ見落とすかもしれない。さらに周囲を見回すと、対面するビルの屋上に、下の調査員よりやや年かさの男性がトランシーバーを持って立っていた。当時は、業界の人たちと交流も無かったので、その責任者らしい男のことも知らなかったが、少なくとも「警察官」でないことは何となく判った。(同業だな)そう思った僕は、再び、依頼人に電話をかけ(張り込んでいる者たちを確認いたしました。多分刑事ではないように思いますが注意して帰ってください)と告げる。警察ではない。と聞いて、依頼にんはホッとしたような声を出した。

午後6時、昼間会った依頼人が一人でビルから出てくる。まず、銀座4丁目のほうに歩き、地下鉄銀座線の改札に向かう。やがて、銀座駅のホームに降り、ホームに入ってくる電車に、乗ったり降りたりを繰り返し、結局電車には乗らず地上に出ると三越に入り、今度はエレベーターに乗って上下し、女性の下着売り場をアイショッピンングした後、タクシーに乗って宿泊先のホテルに戻った。地下鉄で一人、三越で全員がまかれ、責任者らしい男性と合流して東京駅のニュートウキョウで残念会。一方の僕達は彼らを尾行していた。やがて夕食を終えた彼らは三々五々帰路に着いたので、責任者らしい男性に絞って追尾。練馬区の自宅を突き止め、翌朝、今度は出勤時を尾行し、浜松町の探偵事務所に入ったことを確認する。

後年、その責任者と協会で顔を合わせることになるが、勿論、先方は気付いていない。大手の調査会社を退社した後、独立したというその人は、真面目に業務を遂行するタイプで、事務所の評価も高かった。立場が異なるとこうまで違うのだろうか。僕は、ひと目で彼らを(同業)と見破ったが、一方の彼は、狭い範囲でチョロチョロする僕達に注意を目を向けなかった。予備知識の重要さを改めて知ったのだった。----------------