探偵日記

探偵日記 4月22日水曜日 晴れ

眠い。今朝も5時前に散歩に行き、朝ご飯を食べてすぐに支度をして事務所へ。調査員らは現場に出て、事務の高ちゃんはお休みの日。世の中には色んな人が居る。また、人間の欲望というものは果てしない。周りから見れば(幸せ者)と思われてても当の本人は、もっともっとと欲をかく。今回のマルヒAもそういう人間の一人。高校を出て就職した会社でちょっと頑張ったら20数年で社長に抜擢された。創業者には後継者がおらずAに期待した。しかし、Aは、含み資産の多い会社を完全に独り占めするため画策し、これがばれてしまった。信長には失礼だが、彼は家康には成れなかった。これから僕の事務所で徹底的に調査され、臍をかむ結果となるだろう。(腹八分目)満腹になるまで食うと身体にも悪い。

Mという女 7

ここにも一人欲の深い人間が居た。翌日、何時ものホテルでSと会い、子供のようなセックスをした後、(昨日のお話しですが)と切り出した。Sは期待に胸を膨らませたような顔で頷く。Mは、昨夜まんじりともせずに考え抜いた嘘をか細い声で訴えるように話し始めた。(私は、Sさんに、子供の教育費のためにこんな仕事を始めたと言いましたが少し違うんです。実は夫が事業に失敗して大きな借金を作りました。弁護士に相談して、夫を破産者にして、銀行や街の金融会社のほうは何とかなったんですけど、私の友人や夫の親族から借りた分は何とか返したいと思ってーーーー)黙って聞いていたSは(な~んだそんなことか)という顔をし、「そうですか分りました。あなたもご苦労なさっているんですね」と言い。「今後のことをもっと話し合いましょう。じゃあ明日、芝のプリンスホテルの喫茶店でお会いしましょう。」と言って、この日は延長もせず別れた。

ちょっと性急過ぎたかな。お金のことを言った途端延長もせず立ち去った客のことを推測してみた。いくら好き好きと言っても所詮金で買われた女である。行為を盛り上げるためのリップサービスということもある。Mは、何となく大きな魚を釣り損なったような気持ちになった。それでも、翌日、お店には、子供の父兄参観があるからと嘘をついて休み、午後1時、電車を乗り継いでホテルに赴いた。真新しいホテルのラウンジに行くと、もうSは着いておりMを見てニッコリと笑って手招きする。ホテルが違うせいか恋人と待ち合わせしたような錯覚を覚えた。

軽い昼食の後、「今日はこのホテルを取ってありますから上に行ってゆっくりお話致しましょう」と言うSに導かれ部屋に入る。今日も何時ものお金を払ってくれるのだろうか。何てことを心配していると、Sは「まあ立ってないでここに座ってください」と、自分が座っているソファを指差す。(ハイ)としおらしく応じてSの横に行く。Mは、今日Sと会った時から気になっていることがあった。何時ものSは手ぶらだが、今日は大きな紙袋を重そうに持っている。

開口一番「昨日のお話しですが、貴女の負債の総額は分りませんが、僕と協力して少しづつ返済しましょう。今日はとりあえず3000万円持参いたしました」と言って、重そうに抱えていた紙袋をMの方に押し出した。金額を聞いた途端、予定していなかった演技が自然に出た。Mは自分自身でも驚いたが(ありがとう)と叫んだ後、滂沱の涙を流しSにむしゃぶりついたのだった。--------