嘘つきター坊

今日で、「三日坊主」の誹りを受けずにすむ。僕は子供の頃、「嘘つきター坊」と言われていた。断っておくが、決して、人を傷つけるような嘘や、陥れるようなものではなく、例えば、「僕のうちに見返り美人がある」とか、「一銭銀貨を持っている」などをつい口走ってしまう。僕の幼少期は、日本が敗戦から立ち直りつつある時で、回復の兆しも見え始めた頃だった。子供たちが遊ぶものといえば、メンコやビー玉、竹馬、海に向かって行う石投げぐらいだった。その頃、趣味で古銭や古い記念切手の蒐集が流行った。当時の我が家は貧乏だったはずなのに、何故か家の中にそんなものが有って、僕も秘かに集めて机の引き出しに隠し持っていたことを思い出す。だからまんざらの嘘ではないが、蒐集家の垂涎を煽るほどのものではなかった。ところが、そんな僕の他愛の無い嘘を信じ込んだ老人が居て「是非見せてくれ」と言う。その老人は傷痍軍人で、車椅子生活者だったが、話好きで、内容が頗る面白かったので、通学の登下校の時、同級生らと老人に群がって話を聞くのが楽しみの一つだった。老人は、その日から僕を待ち伏せするようになり、僕は、老人から逃げ回る日々が続いた。何しろ狭い漁村のこと、学校に行く道も一本しかない。老人は僕の姿を発見すると、とてつもない大声で「ター坊」と呼ぶ。こんな状態が何時まで続いたのか、どんな形で収束したのか覚えていないが、なんとなく開放されたようだった。以来、僕は、「嘘はつくまい」と、心に決め、面白おかしく言う冗談程度に留めている。

飲みに行った店で、ホステスが「お客さんちってどんな家」と聞いたとする。僕は、ドヤ顔で、「うん、小さな家だよ。敷地が2000坪あるかな~建物は300坪ぐらいだから狭いよ」

と応じる。僕の住む町は杉並区阿佐ヶ谷である。一軒たりともそんな豪邸は無い。