探偵日記 1月31日土曜日 晴れ
昨日は雪のため事務所はお休みにして麻雀日とした。今日はうって変わっていい天気。朝早く新座間で練習に行き11時事務所に出る。4日のエーデルワイス、8日の月例(ひととのや)を想定して、それぞれの各ホールを思い浮かべながらスイングのチェックする。いずれも80ちょっとで回れる感触だったが、いざコースに出ると心外なミスをするのが素人のゴルフ。先月が85で、同ネットの二位だったので、あと二つ三つちじめれば優勝にてが届くだろう。
今日で平成27年の1月も終わり。早いなあと感じる。
新宿・犬鳴探偵事務所 4-1
その後続けて、父親は「分りました。これから母親と相談しますが、明日東京に参りましょう。」と言う。その後、自分たちは東京に行った事も無いので、先生と会うのにはどうしたら良いのか、これからの犬鳴さんはどんな予定か、等と質問する。要するに、(犬鳴の話は良く分かった。娘がとんでもないことをしでかし、東京の偉い医者に迷惑をかけている。自分が上京し、首に縄をつけてでも青森に連れて帰る)というのが、犬鳴の話を聞き、短時間で決めた父親の考えだった。勿論、慰謝料とか、そんなお金のことなど考えもつかない様子である。あまりにもあっけない進展に戸惑った犬鳴だったが、(よし、この父親の気持ちに任せてみよう)と考え、東京を出る際予約しておいた今夜の宿泊先を伝え、一旦ホテルに帰って、必要ならば出なおすことにした。
帰り際、(じゃあ、私はホテルでお待ちしていますので、奥様とご相談されてお返事下さい。先方には一応連絡しておきます。交通費や手術代等の費用は先方に負担させますし、沙織さんの当面の生活費や精神的なこともありますので)と、慰謝料のことをやんわりと申し出たが、父親は聞こえなかったかのように、黙って車を下りて母屋に向かった。会話の端はしに、田舎の人の気真面目さが滲み出ている。おそらくこれから何をどうして良いか分からないものの、工藤家の一員が不始末をしでかした。その一点で動転しているのかも知れない。母屋に戻る父親の背中はうなだれて小さく見えた。
犬鳴がホテルにチェックインして一時間も経っただろうか、父親から電話が入り、朝一番で発ちたいという。犬鳴が迎えに行き、レンタカーで盛岡まで行き、特急に乗ることに決まった。沙織の母親も一緒に行くという。(じゃあ、細かいことは車の中ででも)と言って電話を終えた犬鳴は、受話器を持ち替えて依頼人にかけた。犬鳴の声を聞き「お疲れ様」と労う。この依頼人もちょっとの間に成長したのだろう。柳原家が崩壊し、自身の人生も大きく狂ってしまう。そんな、人生の岐路に遭遇し、持ち前の気の強さや、天真爛漫な可愛い性格が一変するほどの日々の苦悩。犬鳴もこの年になって、ようやく分る。男(夫)にしてみれば軽い遊びだとしても、女性にとってこれほど苦しむことは無い。焦燥とやり場のない不安。それでも、そんな不良亭主の尻拭いを必死にする。そして、犬鳴はそうした依頼人に頼りにされている。
(明日の午後上野に着きますが奥様はそのころどうしていらっしゃいますか)と聞くと、依頼人は、「犬鳴さんの予定に合わせるわ、青森はずいぶん怒っているでしょうね」と言う。(ええ、まあ)犬鳴は曖昧に言葉を濁したが、この人には会わせない方が良いだろう。と思っていた。ドクターとの連絡等手伝ってもらいたいが、沙織を交えた会談に加わらせることは忍びなかったし、依頼人には、いつまでも可愛い人で居てもらいたかった。(費用ですが)犬鳴は依頼人が気にしているだろうもう一つの要件を切り出した。気のせいか、受話器の向こうで依頼人が姿勢を正すような空気が伝わってきた。今回の問題のような場合、どれだけ吹っ掛けられてもノーは言えない。いや言えるだろうけどその時は破談となって、依頼人夫妻にもう一人相続人が増えるのである。(とりあえず、ご両親の交通費と宿泊費、まあ、沙織の部屋に泊まるっていうかもしれませんが、堕胎の費用と、佐織の当面の生活費をご用意下さい。沙織が嫌だと言えばこじれるでしょうが、父親は信用できるように思います。まあ、こちらの希望に沿って尽力してくれるはずです)と伝え、詳しいことはお目にかかってから。として、(おやすみなさい)と言って電話を切った。腕時計を見ると十一時を回っていた。ーーーーーーーーーーーーーーーーー