カーネーションその10

マルヒを追っている調査員から「世田谷の豪邸に入りました」との報告を受けて、僕はまた悩んでしまった。えっ、じゃあ真理子の言う「貴方よりうんとお金持ちよ」と依頼人に言ったことは本当だったのか?そんなはずはないのに。と思っていたらまた調査員か連絡が来た。 「所長、マルヒが入った家は山本という表札が出ています。」止めを刺された。一方、マルヒこと山本が朝帰りしたアパートの電気やガスの使用者は「山本」で...

カーネーションその9

昨日は車で事務所に行ったので、新宿でひっかかることなく早々に阿佐ヶ谷に戻った。ゴルフ仲間が集まる「ラ・ボール」で軽く飲んだ後、天国に一番近いスナック「ほろよい」に行く。相変わらずというか、地獄か天国かは知らないけれど(もうそろそろ)「失礼」といった常連客が揃っていた。 かく言う僕も同じようなものだが、入った途端瞬時に溶け込み5~6曲歌って11時前に帰宅。少し飲みすぎたせいか昨夜はぐっすり眠れた。...

カーネーションその8

昨夜一睡も出来なかった。特に悩みがあるわけでもないのに。加齢による現象なのか困ったものだ。ただ、そうはいっても、夢を見たような気がするので、もしかしたら少しは寝ているのかもしれない。朝7時半朝食。少し横になって10時過ぎに家を出る。今日は奥さんのリクエストで、伊勢丹でグレープフルーツとお味噌を買わなければ成らないので、車で出勤した。 -------------------------------...

カーネーションその7

依頼人としては、静かな真理子の部屋に行ってゆっくり話したかったが、真理子が「おなかが空いた」と言うので、仕方なく近くのファミレスでランチをしながら聞くことにした。どういうことなんだ。依頼人が真理子に目で促すまでもなく、何の衒いも無く、しかも、さも嬉しそうに話し始めた内容は次のようなものだった。 真理子は言う。「あの人は自民党の関係者で、特に、運輸省(現在の国土交通省)の大臣に可愛がられ、東京...

カーネーションその6

電話を切って、そろそろ休もうかと思っていたらまた真理子から電話がかかってきた。 「すみません、彼が貴方と話がしたいって言ってるから代わるね」と言う。いや代わる必要はない。と言いかけたが、受話器の向こうはすでに男性の声に変わっていた。少しどすの利いた声で、「もしもし」と言っている。 真理子は何時もこうだ。自分勝手というほどではないが、思い込みが強く、空気の読めないことがしばしばである。今...

カーネーションその5

22日に書いたカーネーションその4が公開されない。娘に聞いているところだけど忙しい娘から返信が無いので、4を飛ばしてその5を書いている。昨日と一昨日はゴルフ等の予定があてお休みした。ゴルフは一応ベスグロだったけど、ハンデの関係で準優勝だった。というわけで、昨夜は疲れていたせいか良く寝れた。目覚めも快調で、事務所に早く来てブログを書いている。この年になると体調が良好で朝を迎えることなんかめったにない...

カーネーションその4

依頼人は同期の中でも出世頭で、早くから取締役候補だった。仙台支社の支社長就任もその試金石のようなものだったらしい。大手企業に勤務する幹部社員がニューヨークの支店長になったら帰国後役員になる可能性が高い。したがって、依頼人も5~6年大きな失敗をしなければ50歳前後で本社の取締役になるのは間違いないところだった。 しかし、実父の逝去という或る意味で想定されたアクシデントのため、依頼人の意志とは関係な...

カーネーションその3

依頼人には妻と二人の子があるという。不思議でもなんでもない当然の状況であろう。小たりとはいえ会社を経営、経歴も人に誇れるものである。 実父の逝去を機に、およそ10年前、長年勤めた商社を退職し家業にはいった。実父は鉄鋼関係の二次問屋を経営していたが、業界では知らぬものが居ないほどの人物で、一時期は、カルテルをも仕切っていたらしい。豪腕で経営能力もずば抜けていたようで、本業以外に、所有するビル等の自...

カーネーションその2

この日僕は宮城県の亘理という町に居た。数日前に入った新規の依頼案件で、少々変わった内容の調査だった。 依頼人は中年の婦人でその娘を同行して我が貧乏探偵事務所にやってきた。マルヒ(調査対象者)は、この娘の夫の父親である。 身内といってもいいような人を調査する理由はこうだった。 「先方のお父さんに私脅されているんです」 息子の嫁の母親を脅す?このご婦人少しいかれてるのかな。と思ったが勿論そんな...

68歳第1日目

昨夜も小刻みの睡眠で、やや体調不良。それでも10時半、事務所到着。貧乏性というか、どうしても家でじっとしていられない。休むことが罪悪に思えるのだから死ぬまで働き続けるに違いない。という訳ですので、この貧乏探偵社をどうぞ宜しく。 今日から、拙著の次回作に予定している「カーネーション」(仮題)を少しづつ書いてみようと思う。今から4~5年前の案件で、依頼人の心理状況が当時の僕のそれに似ていたことも...