嘘 その1
昭和26年4月、山口県豊浦町の小学校に入学した僕は、数年前に「修身」と言う表現は消えたものの、必修科目に「道徳の時間」というのがあり、礼節や修養などの精神鍛錬を受けた。そんな教えの中に、(嘘つきは泥棒の始まり)があり、僕など、嘘が悪いことは理解できたが、(泥棒の始まり)と言う意味がどうしても分からなかった。当時も今も、僕の田舎で、例え留守にしても鍵をかける家など一軒もなかった。したがって、(泥棒さ...
昭和26年4月、山口県豊浦町の小学校に入学した僕は、数年前に「修身」と言う表現は消えたものの、必修科目に「道徳の時間」というのがあり、礼節や修養などの精神鍛錬を受けた。そんな教えの中に、(嘘つきは泥棒の始まり)があり、僕など、嘘が悪いことは理解できたが、(泥棒の始まり)と言う意味がどうしても分からなかった。当時も今も、僕の田舎で、例え留守にしても鍵をかける家など一軒もなかった。したがって、(泥棒さ...
8月30日木曜日、10時過ぎに事務所に着く。事務のたかちゃんだけで、調査員は全員出はらっている。炎天下の張り込みは辛いだろうと思うが、先輩探偵みんなが通った道である。頑張れ。 膠着状態だった案件も少しづつ進み光明が見えてきた。数日中には、中間報告が出来るだろう。ご依頼人は、一たび依頼すると早く結果が知りたいものだ。僕は、小刻みにでも判明事項を、電話やメールで報告している。次から次に仕事が入っ...
二人は、、伊勢丹を過ぎたあたりから体を密着させ、手をしっかり握り合い肩を寄せて歩いてゆく。僕は(はてな、この先にラブホテル有ったかな)と思いながら尾行を続けた。時々Kさんの方を見ると、真剣な顔で10メール後方から追尾していた。やがて、新宿病院前を通過。新宿御苑の大木戸門の信号を四谷方面に渡る。すると、(ホテル長良川)というネオンが見え、(あそこかな)と思っていたら、外苑西通り、四谷一丁目の信号を渡...
今日も家を早く出て、9時半ぐらいには事務所に入った。何かに急かされるような心境で、事務所にいるだけで、仕事ははかどらず時間ばかりが過ぎてゆく。生きてゆくということは、時の移ろいとともに、煩雑な環境と戦うようなものかと思えるほど、ただ、気持ちだけが焦燥感に責められる。 本年4月、今までの事務所からピッチングの距離に分室のような事務所を設けた。ところが、そこから無間地獄のような不況に見舞われ、大...
8月27日月曜日、時間の経つのは早い。1ヶ月以上前、さあ、夏休みだ。と喜んでいた子供たちもあと数日で終わり、今頃は、頭を抱えて宿題をこなしているに違いない。僕の頃もそうだった。毎日、いや2日置きにでもノートを開いていればそんな苦労をしなくてもいいのだが、ついつい遊びを優先して毎年後悔したものだ。僕など、大人になっても変わらない。早く片付けなければならない仕事があっても(まあ、明日やればいいか)と、...
翌日、、依頼人の要望により早速調査に入る。若い夫婦ゆえ共働きも当然であろう。夫婦は同じ職場で知り合い、結婚後もそのまま勤めている。ただ、就業している場所は、依頼人が本社で、マルヒ(妻)は支店のようなところだった。 午後4時、マルヒの勤務先付近に到着、直ちに張り込みを開始する。同5時7分、営業所の入るビルよりマルヒが出てくる。薄手のコートを着ているので、服装は詳しく分からないがスカートにヒール...
8月24日金曜日、毎日のことだが、本当に今日も暑い。 それでも老コナンは休めない。午後1時、やっとのことで事務所にたどり着き、2~3打ち合わせを済ませたあとパソコンに向かう。今日から、僕が探偵になった頃、担当した調査について書いてみる。当時の僕は、神田駅に近い「東京探偵事務所」に勤務していた。所長はNさん。茅場町に古くからあるS探偵事務所を辞め独立したばかり、Nさんが採用した探偵見習い第一号...
昨夜勉強会のあと少々飲んで帰宅。昼間は猛暑だが、流石に夜ともなれば風は涼やかで秋の気配。あっという間に季節は移り、僕の嫌いな冬がやってくる。 今日は暦の上では「処暑」暑さもおさまる頃。なのだが、とんでもない。益々暑くなりそうな感じである。 僕は何時ものように、7時半の目覚ましで起き、すぐに朝食。そのあと少しゆっくりして事務所に。今夜は、日本橋の社長と会食の予定。帰省した時に求めた故郷の...
そうして1年ちょっと関わった美容整形クリニックの院長「出水聡」に係わる素行調査は終了した。報告書を何通出したか分からないほどの調査だったこともあり、8年以上経った今も、調査の内容や依頼人のことを時々思い出す。素朴な主婦だったが、内に秘めた女の性に何となく激しいものを感じた。折角手にした思いがけない「幸福」を、ちょっぴり美人だからといって、精神を病んだこともある女性に奪われた悔しさは、他人には計り知...
依頼人は、不服そうだったが最終的には僕の説得を聞き入れ、前田家を攻撃する作業はせずにすんだ。その後も、依頼人とは頻繁に会ったが調査をする必要も無いまま数ヶ月過ぎた。会ってする話といえばどうしても本件に関することになり、マルヒの院長がどうしたとか、ああしたといった内容で、加えて、前田恵子のことになった。それでも、依頼人から「明日の行動を見て欲しい」と言われれば、無碍に断る訳にもいかず単発的に慣れ親し...