探偵日記

探偵日記 10月8日火曜日晴れ

少し風が強いがまあまあの天気。10時半、高田馬場の喫茶店で依頼人と会う。先週の土曜日までの1週間、張込尾行調査を行った結果報告。マルヒはかなり衰えており敵とみなす相手ではないことが判明した。これで一安心の依頼人。にこやかに別れ事務所へ。事務所は全員集合、やることはあるはずなのに今時の調査員は腰が重い。イヤイヤ待てよ、じっくり計画を練ってから動くつもりかも。僕なんか若い頃(韋駄天の政)と渾名されたほど、所長が「福田君これやって」と言うやいなやもう事務所を飛び出していた。悪く言えば(おっちょこちょい)で山のように失敗したが、所長の受けは良かった。
と、書いたところで、40数年前、勤務していた探偵事務所のN所長のことを思い出した。昭和3年生まれだからもう85歳か。やや小太りだったが雰囲気のある良い男だった、ただ、酒は一滴も飲まず趣味は女性、正妻が世田谷区成城に娘と住んでいたが、自分は麻布のマンションで愛人と夫婦同然の生活をしていた。じぇじぇじぇじゃあないが、事務所の金庫番はもと妻。という状況で、調査員は誰を奥さんと呼んだらいいか困ったものだった。あたると幸いに口説くものだからもと妻は気が気ではない。ある時など「ねえ、福田君今でかけるっていってるから、ちょっと所長を尾行してみて」と命じられ、おっちょこちょいの僕は深く考えず(分りました)と飛び出した。結果は、瞬く間に所長に気づかれ叱られた。それでも随分可愛がられ、独立してからも良く仕事を回してもらったものだ。この所長以外にも、僕は上司に可愛がられる術を心得ていたらしく、恵まれた新人時代だったように記憶する。