探偵日記

探偵日記 2月20日金曜日 晴れ

今日は、月一回の定期検診の日。食事の後支度して駅前の「つのだクリニック」へ。可愛い受付嬢に診察券を渡し、まずオシッコを採って、体重と血圧を測り、採血する。この日に分る血糖値の数値は155(高いな~)と言うと、「食後2時間だからまあこんなものですよ」と、美人の看護師さんに慰められる。今年に入って休肝日は1日も無く、むしろ酒量は増えているし、ドクターが聞くと眉をひそめるような食生活である。来週月曜日の結果が怖い。

新宿・犬鳴探偵事務所 6-1

 東京、銀座。我が国最大、且つ、上品な繁華街、いってみれば、大都会東京のシンボルのような街。犬鳴も常に憧れはしたが、今では、(とてもそんなレベルではない)と、半ば諦めほとんど憧憬の世界になってしまった(銀座)その外れの、人によっては銀座と詐称するかもしれない「港区新橋一丁目×番地」。土橋のインター横の首都高速の高架下をくぐり、第一ホテル脇のビルの一室に、怪しげな会社がある。表向きは経済誌を発行しているが、代表者の他女子事務員が一人いるだけ。時々、得体の知れない男が出入するが、どれも胡散臭い人相をしている。会長と呼ばれる代表者の手下であろう。ブローカーを生業にし、場面によっては、雑誌記者ともなり、ある時は、強面の団体職員にもなる。事実、会長のWは、同和会の役員も自称していた。犬鳴がまだ神田の探偵社に勤務していた頃、この人物に依頼された仕事に失敗してしまった。所長は小心な人で、言い訳を兼ねた事情説明をまだ入ったばかりの犬鳴に押し付けた。とはいっても、その頃、その探偵事務所には犬鳴以外に誰もいなかったから、必然的にそうなったのだが。

 ミスといっても、例えば、尾行に失敗したとかではなく、下命された日時に調査をしなかった。何しろ、調査員は所長と犬鳴の二人だけ。たまたま案件が重なり調査をしなければならない時間帯に他の尾行調査が長引いてしまった。依頼人にしてみれば、言語道断で、立腹するに値する。所長も、犬鳴も事務所の失態であることは充分承知していた。そうした或る日、犬鳴が生贄となり、Wの事務所を訪問した。犬鳴より二、三歳年上だろうか。小柄だがでっぷりと肥え、見ようによっては、何処かの右翼団体の首領に似た感じの男だった。以前にも数回、報告をするため会ったことがあるので自己紹介する手間は省き、椅子に座るなり率直に謝罪した。本来ならば責任者が来なければならないところだが、家で不幸が有り代わって自分が来たこと、もしお許し願えるなら再調査をさせてもらいたいこと、但し、勿論料金は頂かないこと。などを真摯に述べた。

 Wは、最初こそ不機嫌な顔で黙って聞いていたが「よし分った。しっかりやってくれ」と言い、謝罪会見はあっけなく終わった。事務所に帰ると、所長が心配そうな顔で「どうだった。」と聞く、犬鳴は日頃から都合が悪いと逃げを打つ所長を困らせてやろうと一計を案じ、(いやあ、とにかく責任者を遣せの一点張りで、場合によっては損害賠償を請求するって言ってます)と言ってやった。とたんに所長の顔が青ざめる。猫なで声で、「ワンちゃんどうしよう」と言う。まあこのくらいでいいか。と思った犬鳴は、(所長、しょうがないから僕が二、三日やってみますよ。それでも向こうが承知しなけりゃあ喧嘩しましょう)と言うと、早くも震えている。(まったく、女の尻ばっかり追っかけて、いざというときの意気地がないんだから)と思ったが、犬鳴はそんな所長が好きだった。

 その後、三日ほどサービスで尾行調査を行い、報告書を届けると、Wは、「ご苦労さん」と言って、君のことが気に入った。と言いながら、調査料を払ってくれた。その日から、Wはなにかあると必ず犬鳴を呼びつけ調査を依頼するようになり、間もなく独立した犬鳴探偵事務所の良い顧客となった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーー