探偵日記 2月27日金曜日 晴れ
昨日車で出たこともあって、夕食は近くのデニーズで済ませ休肝日とした。ハンバーグライスにオニオンス-プ。味気ない食事の後、真っ直ぐ帰宅。8時半にはベッドに入っていた。
今朝、携帯の目覚ましで起床。早速タイちゃんを連れて散歩。ところが、雨上がりで路上に匂いが無いのかさっさと家に向って、およそ20分で帰宅。万歩計を見るとなんと800歩、何時もなら2500歩ぐらいは歩くのに、(タイちゃん、これじゃあパパの運動にならないよ)10時、事務所へ。
新宿・犬鳴探偵事務所 7
探偵にとって(さあこれから)と勇み立ったところで調査が終了するのは、肩透かしを食ったみたいで消化不良になる。今回の案件もこれから面白くなりそうだったので、犬鳴は少なからずガッカリしたが、依頼人の指示である。探偵は、依頼されないのに勝手に調査することはほとんどない。探偵の習い性で、(もう少し)と思ってみても涙を飲む事が多い。二世議員の調査も中途半端で終わったが、着手金を含めて十分な費用を貰っていたので、と、思っていたら、バブル崩壊後、依頼人の会社もあっけなく倒産。管財人がついて破産の手続きに入った。そんな或る日、管財人の弁護士から電話があり、「某調査の着手金として、1億円が支払われているけど確かか」との問い合わせ。犬鳴は仰天した。実際の着手金は1千万円だったので、どこでどうなったのか?着手金を集金してきたのは調査部長の池辺である。しかし、犬鳴は池辺に確認しなかった。勿論、彼がネコババするはずはない。と信頼していたし、1億円近い大金を着服するほどの度胸も無いだろう。と思っていた。
それに、その会社の主だった幹部は全員塀の中に入っていた。容疑は(詐欺)で、事件の総額は2千億円だった。何と、ゴルフ場の会員権を79000千人の人に売りつけたのである。フイクサーは、かの有名な(水野健)鶴ヶ島CCなどの経営に関わり、アメリカ西部に広大な土地と別荘を所有する、知る人ぞ知るその世界の悪い意味での超大物である。犬鳴探偵事務所の顧問先になった会社は、水野の傀儡企業で、普通、1800人の会員で開業する、18ホールのゴルフコースに、非常識な数の会員を募り莫大な利益を得ていた。これが詐欺に問われた次第で、犬鳴も朝日新聞などからインタビューを受けたりで嫌な思いをした。或る日、そんな過程で親しくなった某記者が犬鳴に耳打ちした。「犬鳴さん、ご協力頂いたお礼にと言っては何ですが、M社長の逮捕日が分りましたのでお教えします」と言って、当時、犬鳴探偵事務所の近くのマンションに潜んでいたM社長以下幹部のもとに、警視庁の捜査員が彼らを逮捕する日時を教えてくれたのだ。犬鳴は、さすが朝日だな。と思ったが、すぐにM社長と会い、そのことを告げた。朝日の記者も承知していたし、だからといって逃亡する環境に無かった。連日テレビで報道され、逃げおおせる状況でもなかったのだ。犬鳴はM社長に(そういうことですから、ジタバタしないで行って来て下さい)と言い、M社長も「ワンちゃん有難う。出てきたら未払いの調査料必ず払うからゴメンね」と言って、某月某日、午前11時、ものものしく訪れた捜査員に連行され、桜田門の警視庁本部に留置され、すぐに東京拘置所に移された。犬鳴も何度か差し入れに行ったが、結局、懲役7年の判決を受け、某刑務所送りとなった。
犬鳴は、七年の判決じゃあ五年ぐらいで出てくるだろう。少しは隠匿しているはずだから。と、楽しみにしていたが、今日まで音沙汰は無い。ーーーーーーーーーーーーー