探偵日記

探偵日記 01月07日火曜日 曇りのち雨のよう

昨日の新年会、今年の事務所の戦力を見てとりあえず安心する。(キムたちは今の職業をどう考えているのか?)と聞くと皆、「一生の仕事にしたい」と答えた。その中で一人だけ「所長は50数年探偵をやってこられて、収益は上昇推移ですか」と聞くものが居た。確かに、個人情報保護法に阻まれ、調査はやりずらくなったし、ネットの普及や、著しい探偵事務所の増加など、受件件数は減っている。僕の事務所も順風漫歩とはいかない現況だが、とはいっても、嘆き悲しむほどではない。特に僕は、好きな仕事をしてこの年まで人が羨む(まあ、限られた世界ながら)生活を送れているのだから由としている。
しかし、若い彼らにこんなことを言っても理解できないだろう。ただ言えることは、おしなべて皆欲がないなあ。と感じた。それと冒険心、闘争心、向上心。僕が彼らの年にはギラギラしていたけど・・・

新宿・犬鳴探偵事務所 7

或る日、いつものように依頼の電話をかけてきた婦人に、少々うんざりしていた犬鳴は(奥さん、調査はもういいでしょう。ご主人の不法行為の証拠は十分とれたし、これで相手の女性に慰謝料の請求をすればびっくりして別れるかもしれませんよ)といってみたが、「そうねえ」と案じる風は装うものの、「まあ、とりあえず今週いっぱいやってよ。」と言う。そうはいうものの、犬鳴にしても、事務所がこの依頼人から頂く報酬は捨てがたい。変な話、婦人から得る調査料金で1ヵ月の必要経費は賄えたのだから。
また、この頃になると依頼人はしょっちゅう事務所に現れた。有閑マダムは日々に生活が余程退屈なのか「ちょとデパートまで来たから」などと言いながら狭い事務所に入って来る。最近は、犬鳴が居なくても事務の多佳子を相手に事務所で出す美味しくないお茶とお菓子で何時間も過ごして帰る。そんなわけで、数か月もすると、裕福そうだが素朴な感じもする依頼人が、何だか親戚のおばさんみたいにおもえてくることもあって、婆さん育ちで口の上手い犬鳴は、自分の生い立ちや郷里の話を面白おかしく話し、おばさんじゃあなかったご依頼人は大喜びして帰って行く。
またそんな或る日のこと、「ちょっと小田急まで来た」と言って夕方まで粘っていた依頼人が「ねえ、ワンちゃんご飯でも食べない?」(この頃依頼人んは犬鳴のことをワンちゃんと呼ぶようになっていた)と誘ってきた。依頼人の夫であるマルヒはこの日も調査員らが監視している。ちょうど腹も減っていた犬鳴は二つ返事でOKし、依頼人が行きつけだと言う、勿論犬鳴も良く知っている歌舞伎町の小料理屋に行ったのだが。・・・・・