昨日は、、前日漫画喫茶なんかで夜明かししたので疲れたのだろうか、早退したのかもしれないし、勤務形態が不規則なのかもしれない。彼があの日出社したのは新聞社である。或いは、(記者)か、広告取りの営業ということも考えられる。記者なら勿論のこと、営業マンでも訪問先で時間をとられ直帰する場合もあるだろう。僕は色んな場面を想定してみる。
チーフの勇一が「今日は少し早めに行ってみます」と言うので(うん、そうしてくれ)と言っておいた。いずれにしてもマルヒの嘘が暴かれるのは時間の問題だろう。
翌朝、早めに出社するとチーフの勇一も来ており、「判かりました」といって、神奈川県藤沢市の住所と、こ洒落たマンションの写真を見せる。ネットで調べてみるとその部屋は賃貸で、家賃が月15万円であった。(表札は出ていなかったか)と聞くと、「メールボックスにも表記はありませんでしたけど、郵便物が入っていて、化粧品の会社から川井美奈宛のダイレクトメールが届いていました」と言う。土門ー川井全く関連のない姓だった。
(じゃあ、朝から張り込んで奴がその部屋から出てくるところや、家族の顔写真を撮ってくれ、あ、それから、例の…)と言うと、「朝6時からやるように言ってあります」と応える。僕は、(そうか)と言っただけだったが、内心、(ふ~ん、勇一もちょっと成長したな)と思い感心した。駄目だダメだと思っていたが、事務所の若い調査員たちは、少しづつ確実に力を付けてきているようだ。
その日の午後一に、マルヒ本人及び妻子の写真が僕の手元に届いた。妻と思われる女性(川井美奈)は、年のころ30歳ぐらいか、ドキっとするような美人である。子供は、幼稚園児とまだ1歳ぐらいの女児二人。美奈は一人を抱っこし、上の子の手を引いて園バスまで送って行った。いずれも可愛い女の子である。マルヒは9時過ぎ、妻子に見送られ出てきた。
僕は、依頼人にメールで、(土門の住所及び、本名らしい名前が判りました。これから身元の詳細を調べますので、もう少しお待ち下さい。)と、家族も居る旨を加えて報告した。依頼人からは、いかにも感情を押し殺したような「宜しくお願いします」という短いメールが届いた。--------
9月7日金曜日
9時48分発東京行き快速電車に乗って、10時13分事務所に着いた。事務のたかちゃんが来てて、冷房の効いた部屋に入る。今日も午後4時に川崎に行かねばならない。今週、老コナンは酷使され好きな麻雀も出来ない。調査員が20数名居たバブルの頃が懐かしい。あの頃は、ランチを済ませた後、必ず雀荘に行って、午後7時過ぎには歌舞伎町に繰り出していたものだ。クラブ3軒、その後、タクシーを呼んでくれる深夜スナックに寄って、夜中の2時か3時に帰宅する日々が続いた。当時は、タクシーを拾うのが至難の業だった。10時半過ぎに店を出ようものなら絶対と言っていいほど空車を見つけられない。だから、行きたくもない深夜スナックに立ち寄り、(裏電)と言われるタクシー会社の電話番号を知っているマスターの店に行ったものだ。今思えば本当に馬鹿な生活だったと思うが、楽しい毎日だった。もうそんな日は来ないだろう。僕は死ぬまでこき使われ、果ては、ボロ雑巾みたいになってあの世に行くのだろうか?
楽あれば苦あり。後悔は先にたたず。少年老い易く学なり難し。もう少し堅実に生きてゆけば良かったかな。と思う今日この頃である。(笑)