詐欺 その6

金森に対しおよそ1ヶ月調査を費やした。日々の行動はもとより、家族関係、特に子供の通う学校や部活の様子など綿密に調査した。加えて、自宅及び形ばかり残っている会社に特殊工作を施した。その調査により、金森家の困窮状況や家族全員の思考状態まで判明した。自宅の電気が止められようとしているときにさえ、金森の遊興はやまず、毎晩赤坂の韓国クラブに入り浸っていた。過去の実績により、飲食代を督促するような野暮なママはいなかった。

そして今日。金森のベンツは、朝からマークしており、その動きはリアルタイムで病院に待機している三白眼やその部下たちに報告し、即、赤岡に伝わっているはずである。僕は、病院の中庭にある駐車場の車両の中に居た。仮に、金森が多勢の者とやって来て、乱闘騒ぎにでもなれば加わらなければならない。しかし、金森は誰に相談することなく一人でやって来て、当方の杞憂に終わった。

病室には、赤岡の他に三白眼の実弟、取り巻きの中でもより屈強な男が3人、計5人の他に、出入り口や廊下、エレベーターの辺り、そして僕の事務所から調査員が10名借り出され、病室や金森を包囲していた。

何ら悪びれた様子も見せず、部下の一人に案内されて病室に入ってきた金森は、挨拶もそこそこに「申し訳ありません」と言って、床に頭をこすりつけるように這い蹲った。僕の報告で、金森が100億円を溶かしたことは予想していたに違いない赤岡は、ベッドから半身を起こした姿勢で、そんな金森をじっと見つめアハァハと声を出して笑った。三年半前、100億円を誰に預けようかと思い悩んだ末に、一方のヤクザ者ではなく、在日の金森を選択したのは間違いだったのか、もし、K会系の幹部に預けていたら。そんな反省ともいえる心境になったのか、赤岡は、口先だけで笑って、「ちょっと、金森と二人だけで話がしたい、皆出てくれ」と言って、小一時間病室内で密談をした。

この時、二人がどんな会話を交わしたか知る由もないが、数日後、金森が成城サティアンに真新しいキャデラックを持ち込み、赤岡は満面に笑みを浮かべ即金で支払った。100億円を使い込まれた男に、その男から車を買って現金で払ってやる。普通の人には出来ない芸当であろう。しかし、疑問に思ったのは僕だけだったようで、取り巻きは誰一人として、異議を唱えず、また、不思議にも思っていないようだった。

検察官「じゃ証人は被告から預かった100億円を、一旦、青森の農家の敷地に埋め、2日後、掘り返して東京に持ち帰ったのですね」金森「ハイ、間違いございません」検察官「では、その100億円はどうしましたか」金森「絵画を買ったりしましたが、大半は、新宿や赤坂の韓国クラブで全部使いました」

公判を傍聴していた僕は、金森も流石に野球賭博にはふれず、関西の某組織を守ったな。と思ったが、前後の様子から、大いに違和感を覚えた。-----



9月24日月曜日

昨夜少し早く休んだせいか比較的目覚めは良く、朝ごはんも美味しく頂き、さっさと仕度して出社した。28日に、2件の大きな報告があり、その作成や処理しなければならない案件があった。夜は、それなりの予定もある。週の初めは何かと多忙である。老化による物忘れが激しく、手帳に書くだけでは心配なので、文章にして責任者二人に渡す。相するうちにお昼になったので、調査主任の勇一と蕎麦でも食べに行こう。