詐欺 その7

そんな或る日、三白眼から「今度熱海に付き合ってください」と言われた。どんな用事でも、何を指示されても断る理由は無い。(分かりました)と言って、僕を彼に紹介してくれたSさんに、(熱海で何があるんですか?)と聞くと、Sさんは、「会長が遊びたいんじゃあないの」との由。計画では、熱海で一番のホテルに泊まって、二日間ゴルフをするんだという。夜はどうせ麻雀だろうと思ったが、勿論楽しみでもある。女房もつれて来い。ということになり、久しぶりに女房孝行する羽目になった。

旅行当日、旅行の規模が分かった僕は驚いた。なんと、熱海一の高級ホテルを全館借りきり、2泊するという。初日、まずゴルフ場に到着。大コンペである。他の客もいるのだろうが目に付かないぐらい我々グループが騒々しい。やがて、赤岡会長(この頃は、弁護団も我々も彼を会長と呼んでいた)が現れた。皆で出迎える。まるでヤクザの集団である。しかし、僕が驚いたのは赤岡のいでたちであった。二流とはいえメンバーシップのゴルフクラブである。

丸首のセーターにジーンズのパンツ。西部劇のガンマンがかぶるようなハット。極めつけは足元で、なんと、素足に下駄を履いてハウス内のレストランに入ってきた。その日のプレーが終わり、ホテルに帰って夕刻6時から宴会だそうだ。まあ何はともあれ、ゴルフが出来て美味しいものが食べれるものだから、女房殿はご満悦の態で、(会長さんって豪傑ね)などと褒め称えている。毎朝、センス溢れる僕の服装に必ずといって良いほどけちをつけるくせに、と思ったが、口にせず宴会会場に行った。三白眼が型どおりの挨拶をして、次に弁護士が(何としてでも会長の無罪を勝ち取ろう)と、乾杯をして大いに盛り上がった。初日のゴルフの成績発表が済むと、ワーという感じで芸者がなだれ込んできた。

ふすまをぶち抜いた大広間に、客の我々が60名ぐらい、同じぐらいの人数で芸者がやってきて、ばあさん芸者が三味線を弾き始めると、芸者たちが勺をしてまわる。するとその時、突然赤岡が立ち上がり、大声で「そんな辛気臭い三味線なんか弾くんじゃね~」と怒鳴ったかと思うと、三白眼に目配せをして、5千万円位有っただろうか、札束の帯を破って、「そら、貧乏人持ってゆけ」と言うやいなや、豆まきの豆のようにばら撒き始めた。一瞬、何か粗相でもしたかとしゅんとなっていた芸者たちは、その現実を知るや、もう芸をするとか客をもてなす余裕などなくなり、我先に1万円札を袂や帯の間、胸元の隙間に入れ始めた。

さすがに、弁護士や関係者は手を出すことはなかったが、僕は、お大尽の遊びとはこういうものだろうか。と、呆然として眺めていた。-------



9月27日木曜日

一昨日は雑用に追われ、昨日はゴルフで事務所に来なかった。ゴルフは、ベスグロで優勝を飾り賞金の6,000万円をゲット。これで、1回クラブに行ける。(笑)その代わり、結局昨日は2万歩あるき、そのあとの事情もあって、極限の疲労を味あうことになった。楽あれば、また楽あり、そのあと、仕返しのような苦あり。