探偵日記 4月20日土曜日曇りのち雨
昨夜少し飲みすぎて今朝の散歩はずる休みした。8時半、朝ご飯を食べてまた少し寝る。正午過ぎにやっと仕度して出る。まず、ネコの餌やトイレの砂を買い、伊勢丹でお味噌を2キロ。その後事務所に行き、ブログの更新をしたあとちょっと雀荘へ。事務所に着いたあたりから小雨が降ってきた。明日のゴルフを考え憂鬱になる。
話は変わるが昨日の素行調査、最後の最後で失尾した。マルヒの女性と別れた男が自宅に戻る途中、少し間隔を空けて、結果的には、帰宅した家またはアパートの特定ができなかったという。調査員に状況を聞きやむをえない場面だったようにも思うし、数人居たわけだからなんとかならなかったか。とも思う。最後の数秒のことながら全体的にはやや締まらない調査となった。ただ、マルヒの主婦は、(今日お友達のところに泊る)と言って家を出ている。何故だろう?尾行してくる探偵に気づき危機を回避したか?まあそんなことはあるまい。恐らく男性の気が乗らなかったのだと思う。次に期待しよう。
犬鳴探偵事務所 39
すぐに戻ってきた刑事は、「ワンちゃん手配されてるよ」と、結果を教えてくれた。犬鳴も多分そうだろうな。と思っていたので驚きはしなかったが、指名手配にも種類があって、一番簡単なものだと言う。何かの拍子にひっかかればいいなあ。という程度で、例えば、オームの信者達のような写真による公開手配では勿論ない。まあ、ビクビクしなくても良いといえばそれまでだが、当事者は気持ちの良いものではないはずである。犬鳴は、すぐに報告すると3000万円の価値が無くなるような気がして三日後、(手配されていました)と、報告した。
依頼人も覚悟はしていたようで「ああ、そうですか」と言った後、「犬鳴さん、その手配を無くすわけにはいきませんか」と聞いてくる。普通、所轄の指名手配は1ヶ月間有効で、この間に逮捕に至らなければまた1ヶ月延長される。重大事件でなければ適当なところで解除されることもあるらしい。本事件は(風営法違反)で、さほど大きな案件ではない。したがって、総責任者を指名手配までして捜査する事件ではないはずである。各店舗に店長と呼ばれる者がいて、その上に、(社長)が居る。再三にわたる所轄の指導を無視した場合、始末書を書かされ、それでもなお、やってはいけないことをし続けて、やっと家宅捜査され責任者の逮捕に発展する。まさに今回がそれで店長とマネージャーが逮捕された。では、池袋署ではこのほか何を狙っているのだろうか。後日関係者から聞いたところによれば、この女性オーナー率いる「シクラメングループ」(以後、Sグループとする)は、山手線沿線に20店舗以上経営しており、日本最大の規模を誇っている。そして、いずれの店舗も風営法に違反し荒稼ぎしているらしい。警察は、Sグループを標的にして、他の業者に対する見せしめ的な効果を考えているのか。
犬鳴は、高額な報酬に報いるべく次の事を進言した。(オーナー、何時までもホテル暮らしではお体にも差し支えるでしょうから、一度事情説明に出頭されたら如何ですか。私が懇意にしている警視庁本部の警部補に話をつけ、絶対に逮捕しないという約束を取り付けました。私も同行しますので)と言ったが、依頼人は頑としてノーと言う。「犬鳴さん、今私が逮捕されるわけにはいきません。そんなことになったら、グループは崩壊しますし、私は何より国税が怖いんです」ここに至って犬鳴にも大方の事情が飲み込めた。今回の家宅捜査で、Sグループ全体の給与台帳を押収されたという。そしてその数字から総売り上げを算出されれば莫大な税金を課せられるばかりでなく、場合によっては多額の脱税で刑務所送りになる危険がある。と言うのだ。なるほど、依頼人が一生逃げ回る覚悟をしている本当の理由が分った。
依頼人からは毎日、否、一日十数回電話がかかる。今後の相談と、敵対する店舗の実態調査など、この時期、犬鳴探偵事務所はSグループの御用達探偵事務所になっていた。何しろ、ひと声ン百万円である。オーナーから声がかかると犬鳴は文字通り飛んでいった。ただ困るのはその都度ホテルが異なり、しかも、北海道から九州まで、「ああ、犬鳴さん、私今大阪のホテルに居ますすぐに来て頂けない?」と言われ、犬鳴が承知すると、「じゃあ、新大阪に着いたら連絡下さい。その時、ホテルの名前と部屋番号を教えますから」となる。依頼人は、犬鳴にも全幅の信頼を置いていないのである。
Sグループは、池袋店にガサ入れが入り、主だったものが逃亡したため全店舗の営業を閉じていた。犬鳴が初めて依頼人と会ってからまだ10日ほどしか経っていない。そんな或る日のこと、緊迫した声で「犬鳴さん、大至急仙台に来て欲しい」一昨日大阪で会ったばかりの依頼人から電話がかかった。-----------