犬鳴探偵事務所 12

探偵日記 3月9日土曜日晴れ

タイちゃんの起きる時間が少しづつ早くなる。今日も5時くらいから騒いでいた。僕は、5時40分に起きて、5分後に散歩に出る。こんな時間でももうすっかり明るくなった。何時も歩く道の、とある一軒の家、庭先に満開の桜が一本(梅かな)と思った僕は、タイちゃんが行こうとしている方向を無理やり変えて確かめに行った。余り背の高くない樹に小ぶりな花びらが可憐に咲いている。ここ数日の季節はずれの暖かさに、遅れまいと咲いたのか、気の早い桜である。
今日から、3泊4日の事務所の旅行。夕方の飛行機でグアムへ出発する。僕はゴルフ組、若い人はツアー、日頃、夜も昼もなく働いているので、たまには気晴らしでいいか。我が犬鳴探偵事務所じゃあなかった、TDAは、平成元年から社員旅行は海外と決めている。それまでは、春と秋に2泊ぐらいで温泉に行っていたが芸者さんを呼んだりすると結構高い旅行になる。というわけで、年一回の海外旅行となった次第だが、若い人たちの見聞も広がる。途中、飛行機、旅行嫌いの娘と、不況のせいでお休みしたが、今回で17回目となる。それなりに景気の良い時は、ヨーロッパや、ラスベガスまで遠出した。それ以外は、ハワイ、香港、シンガポール、など、女性の希望に沿って決めてきた。グアムは2回目だ。僕的には、韓国が一番行きたい国である。何たって生まれ故郷である。なんて書くと、そそっかしい人は(福田は在日韓国人か)と思うかもしれないが、僕は、戦前、当時、日本の植民地だった朝鮮の京城(今のソオル)に生まれた純粋の日本人です。------

犬鳴探偵事務所 12

或る日、珍しく事務所にいた犬鳴は、最近犬鳴の事務所に迎え調査部長をしている池辺を誘って、歌舞伎町に飲みに行った。池辺は、犬鳴が若い頃修行した「東京探偵事務所」(東京、神田)の後輩である。一見すると元刑事と見まごう容貌で、3億円事件で指揮を取った、落しの八兵衛こと、往年の名刑事(平塚八兵衛)に良く似た男だった。酒好きで酔うとポケットに入っているお金をばら撒きながら歩く癖があり、そのことさえ気をつけておけばいい好人物だった。ぶらぶら歩きながら伊勢丹の前まで来て、(ちょと腹ごしらえしてゆこう)と思い、明治通りに面した文化会館8階にある「エスカイヤクラブ」に入った。この店は会員制で、全国に店舗を網羅してある。(どの店に行っても自分のボトルが出てくる。ことと、今時珍しいバニーガールが接客する)のを売りにして飛躍した。

蝶ネクタイに黒い服の支配人が現れ、いらっしゃいませと慇懃に言う。バニーちゃんに案内されて席に着こうとした時、(犬鳴さん)と呼ぶ声がした。振り返ると池袋の探偵事務所の所長が女性と飲んでいた。------------