探偵日記 5月13日月曜日曇りのち晴れ
年齢は正直である。GW7回のゴルフは老体には無理だったようで、何時までたっても疲労がとれず土曜日と日曜日はブログの更新をお休みした。だらしない反面、一度決めたことはキチンとやらなければ気のすまない僕だが、最近は決して(無理をしない)意識も芽生えそういう観念的なことに捉われず生活する努力もしている。その第一が夜遊びで、今まで定期的に(ほとんど毎日)徘徊していた、銀座や歌舞伎町通いをきっぱりとやめてもう半年以上経過した。現金なもので、ホステス達は、いくら誘っても来店しない僕に愛想をつかしたようで、電話やメールがぱったりと止まった。(去るものは追わず)か。
それと、阿佐ヶ谷の「死に来た病院」から、(貴方は立派な糖尿病です)と宣言され、最初は、(ふん、そんなことあるものかヤブ医者め)と思っていたが、そう言われれば最近少々疲れやすくなったことや、家系的にも糖尿が多い。等と考え、生活習慣をちょぴり変えてみた。まず、ビールを飲まないようにし、好物の甘いものを絶った。朝食後のフルーツも、今までは、グレープフルーツにお砂糖をまぶして食べていたのを、りんごやスイカにしたしコーヒーにも絶対ミルクや砂糖を入れない。食事の量も若干減らし1ヶ月。なんと、あんなに出っ張っていたお腹が心なしかスリムになって、しかも体重は少し増えた。17日の検査が楽しみである。
犬鳴探偵事務所 48
成功報酬は決まったが肝心の調査は遅々として進まない。毎日尾行を続けているのだが全く不審な行動を見せず、いってみれば、絵に描いたような(品行方正)な生活だ。
そんな日が続き、犬鳴もいい加減飽いた或る日、本人の暮らす部屋に特殊工作を施そうとして、下見に行ったとき、メールボックスに一通の白い封書が投函されていた。宛名は勿論本人で、差出人は女性。しかし、女性の住所は遠く、犬鳴の故郷に近い山口県下関。親戚か、或いは教え子でもいるのだろうか?さして期待しないまま、しかし探偵の習い性で、内容をコピーした。勿論本人に気づかれないように、元通りにしてメールボックスに戻す。
犬鳴は一瞥して恋文であることを理解した。年齢は不詳ながら、女性らしい文章で、しかもなかなかの達筆である。(来週学会が東京であるので久しぶりに先生に会える。)要約すればそういう内容だが、全編恋慕の息遣いが聞こえるようなものだった。
「お久しゅうございます。2ヶ月前、先生が北九州にいらっしてお目にかかってから、私の気持ちは毎日鳥のような、今すぐにでも東の空に向かって羽ばたきたい。そんな切ない思いで日々過ごしております。あの夜、福岡のホテルで先生に愛されたことは一生忘れません。夫と離婚したばかりで虚しく過ごしていた私は、よもや先生が以前から私を見初めて下さっていたとは、いい意味で、晴天の霹靂でした。実を申しますと、私くしも、もう5年以上前になるでしょうか、大学で先生の講義をお聞きした時から(何て素敵な人だろう)と思って参りました。あの日から、先生がこちらに来られるたびに、遠くから秘かにご尊顔を胸に焼き付けていたのでございます。あの夜、先生も私のことを憎からず思っていてくださったと知り、気が遠くなるほど嬉しゅうございました。そして、こんな私のために、ご家庭を出られてご不自由な生活を送っていらっしゃること、先日のお手紙で知りました。自分勝手かもしれませんが、本当に有難うございます。もう一度先生に抱かれたなら私は死んでも構いません。」
その後、女性は、上京の日時と宿泊先のホテル名などを記し、「早く会いたい」と書いて締めくくっていた。近くの喫茶店に飛び込んで手紙を読んだ犬鳴は、たなぼたで得たダイヤモンドの情報に、いっ時至福に浸った。この一通の手紙で、調査は90パーセント終了した。あとは、2週間後に上京する女性とマルヒがホテルで再会する様子をカメラに収め、山口県下関で、女性の身元を調査すれば一件落着である。女性はご丁寧に自分の住所やしょくぎょう、さらに、離婚の事実をも披露してくれている。
某日、犬鳴は官費で帰郷し、相手女性の身元調査を終え、田舎の同級生と旧交を温めることが出来た。ついでに、女性が営むデンタルクリニックを内偵し、閉院後帰途に着く女性のスナップも撮って、数日後に訪れる決定的な瞬間を待った。----------