探偵日記 4月8日月曜日晴天
台風一過というのだろうか、雲ひとつ無い日本晴れである。ただ、天気予報でも言っていたが、風がやや強い。タイちゃんのウンチに使うティッシュが飛ばされそうになる。いい気なもので今朝は4回に小分けして用をたされた。しかし、犬にとってもこんな日の散歩は楽しいに違いない。かなり範囲を広げて歩いた。
さて、完全に糖尿病を発症した僕は、毎日2回(朝夕)薬を飲み始め、食事も僅かながら気をつけるようにしている。今まで、そんなに大食いのほうではないが何でも美味しくいただくほうで、夕飯の時は必ずビールを1~2本飲む。人に聞くと、このビールがいけないらしい。昨夜、愚妻に希望で焼肉屋さんに行った。阿佐ヶ谷駅南口の「大門」マスターとは、近所のスナックで良く会うので親しくさせて頂いている。一足遅れて店に入ると、やめようと思っているビールとトマトジュースがテーブルに用意してある。今更断るわけにもゆかず1本飲み干し、次にマッコリを飲み、焼肉を少々食べて帰宅。9時にはベッドに入る。まことに健康的な生活である。
今日は週の初めということもあって、朝食後、すぐに仕度をして事務所へ。神戸で一週間仕事をしてきた二人の調査員も久しぶりに出社、元気な顔を見る。
犬鳴探偵事務所 30
Wからはそれからも色んなリクエストがあり、その都度、調査料の集金に神経を使いながら受件した。対象の企業は毎回変わるがいずれもトップで、中には清廉潔白な人物もいたが、そんな時は調査が長期化し、色んなリスクもあって、犬鳴としては有り難くない結果となる。ただ、そんなことは稀で、90パーセント以上の確立でWの思惑通りになるらしい。F銀行の頭取以下数名をマルヒとして半年以上調査したことがあるが、対象者全員陽性だった。その頃Wは帝国ホテルに居続けていたから相応の収入になったのだろう。羨ましく思うときも有るが犬鳴にはとてもそんな芸当は出来ないし、また度胸も無い。或る日の報告の際、Wに指定された銀座のクラブに報告書を届けたことがある。後で知ったのだが、その店は大企業の重役や政界関係者、売れっ子のタレント等で賑わう超の付く高級クラブだった。(Wさんに呼ばれて)と言うと隅の席に案内され、和服のホステスが接待してくれたが、眩いばかりの美人で、日頃、結構調子の良い犬鳴も気圧され会話も弾まなかった。犬鳴を見る彼女の目は品定めをする冷たいもので、あからさまに頭のてっぺんから足の先までじろりと鑑定された。嫌な奴だな。と思った犬鳴だが、最近平常心で銀座で飲めるようになった犬鳴が耳にしたのは、その店も衰退し、今では安サラリーマンでも行けるキャバクラ化したらしい。どんな場合も(一人勝)し続ける企業や店は無いのだろう。
おそらく、プロ中のプロであるそのホステスは、(この男は今後客に成り得ない)と思ったのだろうが、子供の頃からおりこうさんで、免疫の無いお偉いさん達は、「私の好みよ」なんて言われたらひとたまりも無いだろう。仕組まれる場合だってあるのだ。或る大企業の創業者の妻が性質の悪いホストにひっかかり、ラブホテルで行為の一部始終をビデオに納められ、やがて夫の知るところとなり裸で追い出された。三流週刊誌の記事にもならなかったから、(夫の仕業かな)と、犬鳴は推測した。
№28、29に書いたT社長は大人の判断をしたため無難に退陣し、後に、財界の要職に就いたが、そうでない人もいる。詳しくは書けないが、新聞やテレビ等マスコミの好餌にされた企業のトップや政治家は数え切れないくらい居るが、いずれも内部告発に基づき、探偵が登場し(動かぬ証拠)を掴まれた挙句に記事にされるのであって、要人と言われる人種の人達は十分注意しながら生活するべきであろう。(男というもの一旦外に出れば七人の敵あり)というが、(備えあれば憂いなし)であって、絶えず、危機管理の意識を持つ必要がある。何しろ、Wのような輩はこの世の中うじゃうじゃ居るし、好むと好まざるに関係なくこうした輩に金で雇われる、犬鳴のような(探偵)も大勢居るのだから。ーーーーーーーーーーーー