犬鳴探偵事務所 50

探偵日記 5月15日水曜日晴れ

今朝の東京は今にも降り出しそうな空模様で、5時過ぎに散歩に出た時は、タイちゃんも高架下に向かって走り出したぐらいだった。ところが、仕度をすませ家を出る頃には爽やかな五月晴れに変わっていた。予報では、日曜日は雨らしい。折角のゴルフが台無しになりそうだ。事務所についた時ベトナムの知人からメールが入った。向こうは真夏になって37度あるという。かの国の人たちが勤労意欲に乏しいのも頷ける。まあ、全部の人がそうではないだろうが。
出掛けに、親しい弁護士から電話があり、昭和52年当時の住所からその人の現住所が分るか。という問い合わせがあった。その住所は千代田区一番町で、当時の建物は跡形も無くすっかり様変わりしているらしい。依頼人は、その頃、ある人物にかなりのお金を貸し付けたが、返してくれないばかりか連絡もつかなくなったらしい。そこでどうしても回収したいと言う。むろん法的には時効で、相手がそのことを知っていれば取り立てることは適わない。色んな人がいるもんだ。という僕も、平成3年、うっかり300万円貸して、とうとう返してもらえなかった。東京は本当に怖いところだとつくづく思う今日この頃である。

犬鳴探偵事務所 50

一つの案件が終わればまた新しい調査依頼が入ってくる。なんて上手い話でも無いが、貧乏探偵事務所の所長、犬鳴も何となく生き延びている次第で、怖い反面、大都会東京は様々な事件が毎日のように発生し、そんな中に探偵を必要とする案件が含まれていて、弁護士事務所を通じて問い合わせがある。また、長年やって来たお陰で、リピートもあり、過日、10年以上前の依頼人から新規の調査依頼があった。オーナー経営の会社は健在で、代表の本人も至って元気だ。その日暮らしの犬鳴にはまことに羨ましい限りだが、金満家イコール幸せかといえば必ずしもそうではないらしい。妻に去られ、その後数々の女性遍歴を重ねた挙句、やっとめぐり逢った女性が意のままにならない。王様のプロポーズを蹴って、決して見栄えも良くない使用人のほうを選択する。はからずもそんな愛憎劇に係わってしまった。

また、継続中の他の調査は、子育てを終えたアラフォーの妻が、むなしい生活のはけ口を求めてショッピングに走る。時には、見知らぬ男性とアバンチュールを求めるかもしれない。マルヒが演じる危険と背中合わせの日々を、探偵も影になって追跡する。

私立探偵、犬鳴吾朗は、東京という大都会の片隅を、あだ名のワンちゃんよろしく、その名の通り野良犬のように這いずって、上手くいけばその日の食いものにありつける。そんな悲哀に満ちた生活をもう何十年と続けている。そしてこれからも生きている限り。---------