犬鳴探偵事務所 40

探偵日記 4月22日月曜日晴れ

間が悪いとはこういうことだろう。少し寒いが今日は晴天に恵まれた。一日前の昨日、僕はゴルフのコンペで栃木県小山市のひととのやCCに居た。コースの都合で例月より30分早いスタート。朝5時20分、仲間の金井ちゃんが迎えに来てくれた。天気予報どおりもうかなり強く降っているが、コースについても変わらない。幹事の吉村さんは(俺は晴れ男だ)と威張っているが今日は雨のほうが勝っていたか。四月も半ばを過ぎているのに、気温0℃氷雨に風、最悪のコンデションの中、どうにか18ホールを終えた。それでなくても雨の嫌いな僕は最初からショットが乱れ、スタートホールでは第一打が池ポチャ。後続の4人に大笑いされる。しかし、僕は彼らを振り返って言ってやった。(みんな、次のホールで誰がオーナーか見てろよ)宣言どおり、4オン1パットのボギーで、一番いいスコアで上がった。ところが、次の2番ホールまたまた第一打が池ポチャ。よーし今日は池の数だけボールを無くしてやろう。
寒くて手や指の感覚がなくなりグリーン上でボールマークを刺すことも出来ない。しかしみんなも同じだったようで、入賞こそ出来なかったがニギリは負けずに済んだ。(笑)

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その日の内に仙台に入り、指定された部屋を訪問。相変わらず痩せ細って生気のない顔をしているが言うことは超過激である。のっけから「犬鳴さん、ある女を始末して」と言う。(どうしたんですか)と聞くと、自分たちが蜘蛛の子を散らすように逃げた後、閉めていたはずの店が営業を始めているという。警察の対象外の従業員を集めてほとんど翌日から開いていたらしい。驚き怒るのも頷ける。オーナーにしてみれば、わが子のように可愛いお店を乗っ取られた訳で、誰だって怒り狂うだろう。(その女性がオーナーに断りなく勝手に営業しているんですか?)果たして、そんなことが可能なのか。犬鳴には未知の世界のことで、どうにも理解できない。

それから約2時間、オーナーの説明を聞き漸く納得できた。Sグループの店を我が物にしている人物は、Wと称す50歳くらいの女性で、小さな宗教団体を主宰する(教祖)で、関東で三本の指に入る広域暴力団I会の大物の元女房らしい。その幹部は、一方で、右翼団体の首領でもある。犬鳴も名前だけは良く知っている人物だった。そんな男の前の妻だという。それにしても乱暴な話である。いくら閉店しているとはいえ他人の所有物である。どんな理由で横領しているのか。(どうせ訴えることも出来ないだろう)と、思っているに違いない。犬鳴は、(とにかく、各店舗の状況を把握しましょう。その女性が店を返さないと言うんなら、その時はまた別の方法を考えます)と言って、ひとまずオーナーの怒りを鎮め、「もう遅いからどこかに泊っていってください」と言うオーナーの言葉通り市内のビジネスホテルを予約した。

ホテルに入ってから調査部長の池辺に指示し、Sグループの全店舗の実態を明日までに報告してくれるように頼み、翌朝、経費を取りに来い。というオーナーの部屋を訪れ、その足で帰京した。調査の結果、Sグループの主だった店はWの配下が責任者となり、Sグループの元従業員を使い営業しており、それらの店はすこぶる盛況であった。
仙台のホテルで(オーナー、顧問料を払っている例の組に相談してみたら如何ですか)と進言すると、「犬鳴さん、私はやくざが大嫌いです。お金で何とでもなるけど場面次第ですぐに敵に回るから」と答える。なるほど、そんな経験を嫌というほどしてきたのだろう。この人も学習したようだ。犬鳴は目の前の、自分の姉ぐらいの女性を見て、(一肌脱いでやるか)と思い、その後のあれこれを考えながら事務所に戻った。---------------