探偵日記 5月23日木曜日晴れ
高血圧症といわれて十数年経過した。僕的には血圧が高いとは思えないのだが、20年来通院していた、東京女子医大病院で宣告されてから毎朝一錠飲み続けている。しかし、昨年秋、地元阿佐ヶ谷の病院に変えてから、糖尿病も加わりこれまで3回採血した。僕は、東京女子医大で一度も糖尿なんて言われなかったので抵抗したが、主治医は「貴方は立派な糖尿病です」と言い張る。確かに、数値的にみれば、ヘモグロビンとやらが7,4血糖値148で、体重が急激に3キロ減少したり、やや、疲れやすいかな~程度の自覚症状もあって、朝晩1錠づつ飲み始めた。それが3月22日のこと、採血したあと診察を受けたが、血圧を下げるクスリを増やされた。僕は毎日自宅で測定しているのだが、比較的血圧が上昇する目覚直後でも上が130以下、下が75以下である。これは、毎朝薬を飲んで20時間以上経過した時の数字で、(決して高くないのに)と勝手に思っていた。なのに、何故?
処方箋を持って調剤薬局に行くと、多分薬剤師であろう女性が、「このお薬はおかしい」と言う。僕は増やされた薬を飲まずに。
5月17日、再び病院へ。採血をした結果、ヘモグロビンは0,4ポイント減って7,0血糖値は138になっていた。主治医は「じゃあ血圧を測りましょう。」と言って測り「ああ、良くなってますね」と言う。この日も前回同様の処方箋が出たが、まだ貰っていない。近代医学を疑うわけではないが、何でもかんでも薬、クスリ、くすり。で良いのだろうか?
というわけで、今日、セカンドオピニオンで、比較的評判の良い近所のクリニックに行った。予約をしていなかったので明日9時にまた来いと言われ、問診表にあれこれ書いてすごすご帰る。
見習い探偵 6
今日はM君について書いてみよう。M君を採用したのは犬鳴探偵事務所の最盛期だった。池辺調査部長と面接し即決した。元気も良さそうだし何より経歴が素晴らしい。犬鳴は、面倒な面接なんか早くおしまいにして麻雀に行きたいので、(部長いいじゃあないか採用しよう)と言って事務所を飛び出したのだが、雀荘に行く道すがら(なかな面白い奴が入ったな)と思った。彼が提出した履歴書はのっけからユニークで、氏名は、御子柴蘭磨(ミコシバ・ランマ)年齢26歳。本籍は青森県、大学卒業後、警察学校に入り埼玉県警に採用され、先月まで、大宮署の刑事課に勤務していた。と書かれてあった。(ずいぶん変わった名前だね)と、僕が聞くと、M君はここぞとばかりにひざを進め、「はい、父方が皇族につながる家系なものですから」と言って、はははと鷹揚に笑った。僕は思わず、はは~と言ってひれ伏したい気持ちになったものだ。(どうして、警官を辞めることになったの)すると皇族方はこうおっしゃった。「実は、僕は射撃の名手でして、ある時、僕の班で山登りに行ったのですが、部員の一人が壁に宙ずりになって助ける手立てが無い状態になり、上司の命を受けた僕が射殺したんです。結局、そのこと事態は公にはなりませんでしたが、署内的に僕が全責任を負う形で退職したのです」ふ~ん凄い奴が来たもんだ。犬鳴はもとより、池辺部長も他愛ないもので、早速おいでいただくことになった次第である。
1週間も経っただろうか、何となくみすぼらしい格好をしているので、犬鳴はまだ作って間もないスーツをプレゼントしたりした。そんな或る日の夕方、突発的な仕事が入り、現場が青森県だった。犬鳴は、チームにM君を加えるよう調査部長に指示し、1時間ぐらい前、(お疲れさま)と言って帰っていったM君を呼び帰そうとしたがなかなか連絡がつかない。今夜にも出発する予定なので、困った事務所は、(M君の下宿先に誰かを向かわせた)帰宅したところを連れ戻し青森に行かそうとしたのである。ところが、履歴書に書いてあったM君の下宿先に行った調査員から「家主が、後にも先にもそんな人は居ません。と言ってます」との連絡が入った。
ここに至って犬鳴も調査部長も本来の探偵に戻った。もう午後7時を回っていたが、本籍地の住所をもとにその周辺をしらみつぶしに調べ、大宮署にも知人の刑事を通じて照会してもらう。その結果、何処にも御子柴蘭磨は存在しなかった。そういう作業をしているとき、改めてM君の履歴書に目を通す。犬鳴は自分の馬鹿さ加減に腹が立った。M君の年齢は見かけどおり26歳ではあるが、生年月日から逆算してみると、M君は3歳で小学校を卒業し、13歳で大学を出て警察に入った勘定になる。(なんだこれ)調査部長や残っていた数人の調査員達も大笑いしている。しおれている犬鳴に追い討ちをかけるように調査員の一人が言う。「御子柴蘭磨」って、漫画の主人公の名前ですよ。
翌日、何食わぬ顔で出勤したM君を呼んだ犬鳴は、(本当の生年月日は?)と聞いた。いい加減な話だが、その頃は、偽名でも構わない。と思っていた。しかし、年齢が違うと言うことは、その後の経歴も全て虚偽ということになる。しかし、M君は履歴書の記載を全部真実と言い張り、嘘を認めようとしなかった。
それから数年が経ち、犬鳴探偵事務所もあの素晴らしい事務所からの移転を余儀なくされた。ただ、僅か1年ちょっとで苦境を脱し、バブル当時とまではいかなかったが、それなりに多忙を極めていた或る日、事務の高子が「所長、面接に来たいって言う人から電話があったのでどうぞ。って言って置きました」と言う。すると間もなく一人の男性がにこやかに訪れた。履歴書を出して面接が始まる。名前は木村哲也、年齢30歳。普通の会社を数回転職しているが勿論探偵の経験はない。人手も欲しい時だしまあいいか。と思ったが、彼の顔を良く見ると、額一面赤く爛れている。(どうしたの)と聞くと、「化粧品にかぶれた」と言う。その時である。本当に間抜けな探偵、犬鳴吾朗は、ハッと気づく。何と、目の前に座っている木村哲也は、あの御子柴蘭磨ではないか。そういえば、あの時青森で木村という家で、「家の息子じゃあないかな」と言っていたのを思い出した。
(じゃあ検討してお返事いたしますので1~2日待ってて下さい。)犬鳴h、かろうじてそう言って応募者を帰したがその後、何だか具合が悪くなった。--------