見習い探偵 2

探偵日記 5月17日金曜日晴れ

今朝は散歩の後1時間ほど休んで病院に行った。採血したあと2時間以上待たされて主治医の診察。糖尿の数値を表す数字が7,4~7,0に下がった。2ヶ月飲酒や食事を考え、薬を飲んで、たったの04の改善である。(先生、じゃあ昨年の10月の6,3に戻すにはどのくらいかかりますか?)と聞くと、「これからの食生活次第でしょう。お酒がね~」と言う。僕としては、その食生活の指導を受けたいのである。酒を飲まないで、食事の量を今の半分にすれば効果はあるだろうが、何の制約も受けない人がそんなことできるだろうか。僕は決して大食漢ではないし、お酒も(大酒のみ)ではない。と思っている。ただ、何でも美味しく頂く。だから身についてしまうのだろうか?
というわけで、今朝は朝食を抜いた。ああ、お腹が空いた。

見習い探偵 2

昭和56年、知人が「ワンちゃん、どうしても探偵になりたいっていう男がいるんだけど雇ってくれないかな~」と言ってきた。会ってみると感じのいい男で、少々年を食っているがちょうど忙しい時だったのでOKした。名前はS君という。身長は170センチぐらい。痩せ型でメガネをかけ、立派な髭をたくわえていた。ある時、二人で新規の依頼人の会社を訪問したら、依頼人の社長が「どっちが責任者ですか?」と聞く。犬鳴が(私です。)と応えると、社長は、「この人のほうが偉く見えるね」と言って三人で笑い合った。可も無く不可も無い感じで数ヶ月経過した。やや、訥弁だが年の功で聞き込み等如才なくこなしたが、金銭にルーズで、住んでいる公団住宅の家賃を1年以上滞納していた。(やっと就職できたので、少しずつ払う)という約束をしなければ追い出される。しかし、自分一人では行勇気が無いので、一緒に行ってくれ。と言う。仕方なく公団の管理事務所へ同行した。

酒もあまり飲まないのに、何にお金を使うのか?それとなく生活ぶりを観察した結果、ギャンブル好きであることが分った。犬鳴も無類の麻雀好きである。S君を紹介してくれた知人もしかり、仕事の無い時はS君を交えて囲むこともあり、麻雀を含めて私生活は大目に見ていたが土日の競馬が大きかった。この時は、愛想をつかして妻子は実家に帰っていたから一人暮らしである。どうかすると、2日間でお給料を全部すってしまうこともあるらしく、何時もピーピーしていた。そんな或る日のこと、浮気調査でS君と二人で尾行することになった。調査は順調に進み、マルヒが、女性の住む横浜のマンションに入ったため、その日の尾行は終了したのだが、マルヒが東京から横浜駅に着いたあたりで、何だかS君がそわそわし始めた。犬鳴が、(どうしたの?予定でもあるのか?)と聞くと、「すいません。女房と会う約束をしています」と言う。マルヒは、駅前のデパートに入り何やら買い物を始めた。今一人になるのは大いに危険である。雑踏で見失うかもしれない。

しかし、犬鳴は(ああそうか、じゃあ帰っていいよ)と言った。三十を越えた男がよもや現場を離れ、仕事を放棄するとは思わなかったのだ。ところが、S君は嬉しそうに、口では「すみません」と言って犬鳴を残して帰っていった。その後間もなく、転職したいと言って辞めていったが、それからも、麻雀やゴルフの付き合いは継続した。S君は、元々設計のようなことをしていたようで、転職も建築関係の会社だったが、1年も続かず「もう一度探偵をやりたい」と言ってきたが勿論やんわりとお断わりした。

それからもう30年以上経つ。S君の消息を聞くことは無いがちゃんと生活しているだろうか。考えてみると、昭和46年、神田駅前で独立した時は、依頼される調査の大半が、企業が発注する信用調査や雇用調査で、いってみれば、(薄利多売)である。したがって、当時は女子事務員や調査員数名を採用していたが、事務所を新宿に移し、(探偵業)に移行してからは、S君が犬鳴探偵事務所の第一号の社員だった。------------