探偵日記 1月16日水曜日晴れ
昨夜、天国に一番近いスナック「ほろよい」に、細川たかし、否、そのそっくりさんと行く。彼の、望郷じょんがらなどを聞き、大いに盛り上がって気がつけば午前様。今朝の散歩を何とか回避しようとしたが不首尾に終わった。朦朧としながら1時間歩く。午前中ぐらい寝てやろうと思っていたが、弁護士から電話が来て、「書類を取りに来い」との由。仕度をして家を出る。
背信 その7
新宿の喫茶店に行くと依頼人はもう着いていた。重い気持ちで座る。コーヒーを頼み暫し沈黙が続く、「それで、実は福田さんに、改めて依頼したいのですが、あの男を失脚させることは出来ないでしょうか」僕は、依頼人の顔をじっと見て、(弁護士に依頼して、慰謝料を取ることでは納得できないんですか)と、聞いてみる。この場合、依頼人の気持ちは痛いほど分っているから、なんとも虚しい会話になる。下世話な話で恐縮だが、昔から、(一盗、二脾、三妾)という諺がある。要するに、一番刺激的なのが他人の者(妻または恋人)を自分の物にすること、次が、最近問題になっているパワハラに属すが、ノーと言えない立場の女性を権力を以って自分に従わせること、三番目が資力にものを言わせ、やはり自分の思うままにすることである。本件のYは最初の一盗を犯したことになり、自信は快楽を享受しただろうが、された依頼人は怒り心頭であろうことは明白である。
しかし、法治国家に於いて、Yに対して出来ることは限られている。一番オーソドックスなのは、弁護士に依頼して「損害賠償請求」することだろう。勿論、一さんも僕の事務所の顧問弁護士に依頼することになっている。今日の依頼は、その他に何かしてやりたい。というものである。Yは、いやしくも我が国を代表するほどの企業の部長である。かなりの確立で重役の目もあるらしい。(その目を摘み取って欲しい)というのが、依頼人の希望のようだ。僕としては、確かに、事務所の大事な依頼人の頼みである。適うことなら希望に沿って何らかの工作をしてあげたいと思う。しかし、翻って考えれば、Yに対し、個人的な怨みつらみはない。
(一さん、法的にペナルティーを加えようとしている相手に、変則的な攻撃をするのはどうでしょうか)僕はやんわり断りの言葉を言ってみた。「そうですか」依頼人はがっかりしたらしく、大きくため息をする。
それから数日したある日の夜、ニュースを見ていたら、アナウンサーが、新婚旅行でオーストラリアに行った新妻が行方不明になった。事件を報じていた。僕は(何か事件に巻き込まれたのかな、不運な夫婦だな~)ぐらいに聞いていたが、翌日だったかその次の日だったか覚えていないが、渦中の新妻が見つかったという。なんと、かねてから交際していた勤務先の上司と密会していたらしい。騒ぎが大きくなって出るに出れなくなった結果、数日間隠遁していたという。----------