七人の奇妙な男達 10

探偵日記 11月22日金曜日晴れ

昨日はボジョレヌーボーの解禁日(毎年11月の第三木曜日)いつも仲間の集まるレストラン「ラ・ボール」へ。今年は樽は無くボトルだけ、僕はワインは苦手だが自分だけ焼酎を飲むのもどうかと思いみんなと付き合った。その後、久しぶりに天国に一番近いスナック「ほろよい」に行き、同級生のデビュー曲(男の十字路」ほか数曲歌って帰宅する。

今日は、いつもどおりの時間に起きて朝食を摂る。その後、血圧を測ってみると上が158下が105.何時も高くても135と80ぐらいなので驚く。ここ2日ばかり鼻炎の治療薬(タウロミン)を飲んでいるが、そのせいかもしれない。少し横になって事務所へ。

七人の奇妙な男達 10

戸塚ハイツでの合宿生活が解散になって間もない2月のとても寒い日、会長と会長の病院仲間Tが犬鳴の事務所にやってきた。その頃犬鳴探偵事務所は高田馬場駅前のマンションの一室で営業を再開していたので、当時の仲間が用もないのに訪れ、彼らの溜まり場みたいになっていた。昼食時に来れば必ず出前を取ってやり、夕刻ならば、事務所の近くの居酒屋に皆を誘った。犬鳴とて懐があたたかい日ばかりではない。それでも、見栄男の犬鳴は5回に4回はなけなしの金で振舞った。勿論、彼らが競馬で儲けた日などは意気揚々とやってきて、犬鳴ほか事務所の者たちまでゴチになった。二人はちょうどお昼時に来たので犬鳴や事務の高子と一緒に出前を頼む。Tはお定まりの天津丼、食の細い会長はラーメン、僕と高子はラーメンライスと餃子。食事は大勢で食べるほうが美味しい。バカ話をしながら楽しいランチタイムとなった。

その頃、駅前の信用金庫に勤務していて、後に犬鳴探偵事務所の調査員になる内川が神妙な顔でやってきた。ひと月前に初めて訪れた内川の勧めで積み立てを始めていたのだ。今日は2回目の集金日だった。犬鳴は今まで貯金などしたことが無い。(入った金は全部使う)を、信条にしていた。そんな犬鳴の性格を良く知っている会長やTは「へ~ワンちゃん珍しいことするね」と言って冷やかす。少々バツが悪かったが、(いや俺のじゃあないよ高ちゃんの結婚資金だ)と言って高子のせいにした。ただ、二人に現金を見せたのは失敗だった。犬鳴は、その時、Tの目がきらりと光ったのを見逃さなかった。案の上、内川が帰った後、といっても、それから4時間後のことだが、手を出された。というのも、内川がやってきたことで面子が揃い麻雀になってしまったのだ。内川は信用金庫の職員の枠に収まらない無鉄砲な奴だった。昼間から探偵事務所でビールを飲みながら昼飯を食い、誘えば何時間でも麻雀に付き合った。犬鳴が(大丈夫か?)と心配するほどだが、本人は至って鷹揚で、「程ほどの成績を上げてさえいれば首になんかなりません」などと言い、それが癖の声を出さずに笑っている。

麻雀は内川と犬鳴が少し勝ち、会長とTが凹んだ。ただ、ある時払いの催促なしがグループの掟だったので内川の勝ち分を犬鳴が立て替えた。じゃあ、(一杯やって行くか)と言う犬鳴の言葉に反応した内川が「それでは私も後からご相伴させていただきます」などと言って金庫に帰り、間もなく現われた。酒豪の高子を交え5人で飲み始めたところへ、「女房が勤めに出た」と言い、今ではキャバレーのホステスのヒモになったKが合流、果てしない酒盛りになった。この日を境に内川とグループは急接近し、毎晩飲み歩くようになった。KやTは、内川を御し易いと見たようで、内川も、自分が今まで交わったことの無い人種を面白く思ったのか、数ヵ月後にはすっかりグループの一員になっていた。------------