七人の奇妙な男達 15

探偵日記 11月29日金曜日晴れ

結局昨日も休肝日にした。車で家に帰ったのが9時を回っており面倒なので外に出なかった。年齢とはそういうものなのだろうか、つい1年前までほぼ連日午前様だったことを考えると少し極端すぎるかもしれない。ゴルフも、毎月一回開催されていた「けやき会」が無くなったこともあって、今年は45~6回で終わりそうである。先輩が言っていたが「ワンちゃん70を越えるとメチャメチャ弱くなるよ」と。翌年、その先輩が「ワンちゃん72を越えるとエっていうぐらい衰えるよ。何もかも」と言う。しかし、我々のゴルフ仲間で85歳の人が居るが、なかなかどうして、あまりカートにも乗らず矍鑠としている。個人差があるとはいえ(自分があの年になってまだゴルフをしているだろうか)と考えさせられる。思えば、最近良く寝れる。といっても熟睡できるというのではなく、まだら寝である。横になるとすぐうとうとし、浅い夢を見る。起きてから(あれは夢だったのか現なのか)と判じかねる。こうして、徐々にボケてゆくのだろうか?

七人の奇妙な男達 15

資産家の一人息子として生まれ、競馬で身を持ち崩したK,警察官の、やはり一人息子として生まれ、結核を患い人生を狂わせただろうT、Kの学友で、やはり一人息子だったN、彼も競馬で勤務先を首になった。こうしてみると、一人息子が多いことに気付く。やはり一人っ子と言うのは甘やかされて育つから辛抱が足りないのだろうか、否、それでは世の一人っ子に申し訳ない。やはりその人その人の資質によるものだろう。この三人に共通するのは(飲む、打つ、買う)の三拍子が揃っていることだろう。毎晩酒を飲み、女性を求め、昼は競馬、夜は麻雀。そしてお金が欲しくなれば働かず、口先三寸で友人や知人を騙す。いずれも子悪党だから、例えば、銀行強盗とか誘拐等はやらない。いや、小心で、ちょっぴり知性もあるから出来ない。その点、50歳で早世した信用金庫の内川は度胸もあった。ある時、犬鳴にこんなことを言った。「犬鳴さん、僕は明日大宮に現金5000万円持ってゆくんですが襲いませんか」何時もの癖で、斜に構え、口元をゆがめる薄ら笑いをしながら。勿論、犬鳴はこれっぽっちも関心を示さず、(狂言なんとかってやつか)と応じ話に乗る素振りは見せなかったが、今頃になって、内川に試されたかな。と思うことがある。内川は、地方の素封家の二男として生まれ、彼の言葉を信じるならば、「幼稚園を3回変えられた」ぐらいの暴れん坊だったらしい。ある時その一片を見せられたことがある。

例によって、昼間から犬鳴の事務所にやってきて、ビールを飲みながら、「犬鳴さん今日付き合ってくれませんか」と言う。うんいいよ。と応えると、夕方、ジープを事務所に横付けにして「これから丹沢にドライブしましょう」と言って、東名高速に入る。途中、「犬鳴さんジープを運転したことがありますか」と聞くので(ないよ)と言うと、運転を代われと言う。自信は無かったができないというのも癪なので暫く代わって運転した。腹ごしらえして山道に差し掛かる頃にはすっかり暮れて真っ暗になった。すると何を思ったか内川がジープのライトを総て消してしまった。驚いた犬鳴が、故障か?と聞くと、「いや灯りがあると小鳥たちが起きますから」と、にんまり笑ったものだ。前が見えないまま獣道に等しい山道を猛スピードで駆け上がり、山頂に着くと星や月明かりで、眼下の漆黒の山なみを見て、夜明けと共に下山したのだが、登ってきた道の右側は鋭い崖になっていた。

またある時、「まいりましたよ」とぼやくので、何だい。って聞くと、交際中の女性があんまり煩いので丹沢に捨ててきた。らしい。女性は自力で下山し、トラックに拾われ秦野警察に保護されているという。「夜中に自宅に電話がかかって、仕方ないから迎えに行きましたよ」と言って笑っている。しかし、その後も彼はその女性と長く付き合い自然消滅した。男女の仲は分らない。

酒を飲むと持っているお金をばら撒く癖のあるI、彼は、犬鳴探偵事務所の調査部長を長く勤めたが容貌が(落としの八兵衛)と言われた警視庁の刑事、平塚八兵衛氏に良く似ていて、聞き込みには適していた。酒乱のH、彼も犬鳴探偵事務所の草創期の調査員で、戸塚ハイツの住人にもなった男。普段は大人しくニコニコしているが、一たび飲み始めると一変、宥めすかして連れ帰るのが一苦労だった。ある時、二人で居酒屋で飲んでいる時のこと。明らかにその筋の人と分る男が入ってきた。するとHが、「うじ虫帰れ」と言ったものだから大騒ぎになった。本人はそういったあと「ドンマイ、ドンマイ」なんて言って平気な顔で飲んでいる。そのヤクザに、平身低頭で謝るのが大変だった。バブル直前までの犬鳴の交友関係は不良で、犬鳴自身、(類を呼ぶ)ってことかなあ。と、気にもしなかったが、個人情報保護法なんて悪法が出来、閉鎖的な世の中になってしまった現在の日本より、思い返せば本当にバカバカしいあの頃のほうが人間的であり、犬鳴の性分には合っていた。--------------(了)