探偵日記 11月28日木曜日晴れ
今日からまた寒くなるらしい。藪用が出来、朝食を済ませてすぐに支度をして車で出掛ける。新宿御苑の都営駐車場に停めて事務所へ。この駐車場は最初の3時間が500円、最近のコインパーキングが10分150円とか200円のところもあるので破格の安さだから利用客が多い。もし、犬鳴探偵事務所に御用の方は事務所から~4分のここを利用して下さい。場所が分らなければ事務所のイケメンの調査員にお迎えに上がらせます(笑)これからの探偵事務所はこのくらいのサービスをするべきだろう。今朝のニュースで同業の「小浜某」(逗子市で主婦が殺害された事件で、ストーカーに主婦の現住所を教えた探偵)が起訴されたことを知った。小浜は僕も知っている男で少しとっぽいところはあるが腕のいい男だ。彼も、まさかこんな事件になるとは夢にも思わなかっただろう。同じ探偵として複雑な心境になる。何でもかんでも怖がっていたら探偵は務まらない。探偵業法では、(この調査結果を決して悪用致しません)という誓約書を依頼人に書かせることを義務付けられているが、はたして小浜は書かせたのだろうか、いや、ストーカーから依頼を受けたのは別の業者のようだからそこまでの義務は無かろう。と思うのは素人考えか。
昨日は床屋さんに行った後、さっさと阿佐ヶ谷に帰った。夕飯を摂るにはまだ早すぎる午後5時過ぎ、一旦家に帰って出直そう。と思って自室で本を読んでいるうち食事も定期的な投薬もせずそのまま寝てしまった。もし今日が定期検診の日ならば僕の胃腸はさぞかし綺麗だろう。読み終えた本は「疾風ロンド」(東野圭吾ーー違うかな?)面白かった。
七人の奇妙な男達 14
Tが質屋好きなのは有名だが、ある時、電車賃も無くなって、持っていたこうもり傘を持っていった。質屋の主は「Tさん、いい紳士がこんなものを持ってくるんじゃあないよ」とたしなめたが、結局200円貸してくれたらしい。また別の日、彼女を吉原のソープランド(その頃はトルコ風呂と言った)で働かせていたMが、ゴルフクラブ一式が入ったキャディバッグを貸したらなかなか返してくれず、強く催促したら(申し訳ない質入した)と白状したという。とにかく、人の金も何も見境の無い輩で、(お貸し下され)だから、返済する意思などこれっぽっちも持ち合わせていなかった。犬鳴も或る日、「10万円必要なんだ。」と、Kに泣きつかれ当時内川の勧めで持っていた小切手を貸したら、数日後、信用金庫の当座係から、「200万円の取立てが回ってきていますがどうしますか」と電話がかかり驚いたことがある。結局、内川の裁量で(不備)とかで先方の銀行に返却して不渡りこそ免れたが(白字)で渡した犬鳴が悪い。例えば、1億円と記入されても文句は言えない、発行人の責任になる。
そんなこんなで、とうとう二人とも行方知れずになってしまったが、時は、昭和58年、ちっぽけな犬鳴探偵事務所に次々と依頼案件が入り、犬鳴一人ではこなせず、勤務を終えた内川に手伝ってもらっていたが、それで限界を感じ就職雑誌に広告を打ったら応募が殺到、一度に7~8人を採用し、あっという間に大所帯になった頃のことである。中には、変則的な調査もあって、場面場面で役者を必要とすることもあり、そんな時、KやTが居たらなあ。と思うこともあったが、彼らが去って以後、犬鳴探偵事務所は急速に飛躍した。酒を飲みながら彼らを懐かしがる犬鳴に事務の高ちゃんが説教する。「所長はあんな人達が好きなんでしょうけど、彼らは貧乏神よ。だから、彼らが出入しなくなって事務所も良くなったでしょう」と。しかしその後も犬鳴は時々考える。一度全員に集まってもらい同窓会がしたいなあ。なんて。------------