七人の奇妙な男達 13

探偵日記 11月27日水曜日晴れ

今日は11時に代々木の会社を訪問。社長と面談し、所在調査の報告を行う。社長の所有する土地に僅か3平米の土地がくっついていて売ろうにも売れないので、その所有者を探してくれというもの。昭和27年当時の登記で、しかも「ダヤラム」うんぬんという名前。到底探せないだろうと思い調査料も決めず(ちょっとFAXしてみてください)と言って、そのうちお断わりしようと考えていたが、息子の所長があれこれ調べて結果を出してきた。但し、ダヤラムというインド人は数十年前母国に帰ってしまい、高齢のため生存すら分らない。今は、その息子がインドでダヤラム父子商会なる会社を継承している模様。というところまでの報告である。社長は、「じゃあ、インド大使館にでも相談に行くかな」と言っていたが、法務局か裁判所で(筆界認定)をしてもらったほうがいいんじゃないでしょうか。と提案してきた。12時過ぎに事務所へ。

七人の奇妙な男達 13

最初は100万円位だったのが300万円になりあっという間に1000万円を越えてしまった。そうこうするうち、Kもてを出すようになり内川金融社は大繁盛である。犬鳴は前もって内川に彼らの素性というか、いかにちゃらんぽらんな連中か注意していたが、内川も少々不良性があるとみえ「分っています。でも所詮他人の金ですから」なんて、不敵に笑って、信用金庫の職員とは思えないような台詞を吐いた。その覚悟があるのなら犬鳴がとやかく言うことは無い。と思ったのも、その信用金庫の内情を内川から聞いていたので、勤務先も勤務先なら職員も職員だ。と前々から感じていたからだ。驚いたことに、ちっぽけな信用金庫なのに簿外預金(預金したことを忘れて放っておいたり、お年寄りがそのままにして亡なって親族も気がつかないとか、残高を下ろすことなく転居したなどの、将来払い出しを求められる心配のない預金)が60億円あるという。犬鳴は聞いた(じゃあ、三菱とか三和銀行はどのくらいあるんだろう)内川は「恐らく数千億はあるでしょう」と言う。またある時、窓口の女の子が不渡りの小切手に対し、うっかり100万円決済してしまったが、支店長はその簿外預金を使って、内々に済ませたらしい。それから20年後、調査を通じてT銀行A支店の数千億の詐欺事件に携わり、金融機関のでたらめなやり方を肌で感じることとなった。

ところが、TやKも、犬鳴の存在を無視できないものだから、思いがけず内川との関係は順調に継続されバブルの直前まで続いた。彼らがもう少し頑張って犬鳴探偵事務所に出入していたならば、それからの10年、もっと面白い生活が出来ていただろうが、小ズルイ性根はいかんともしがたく僅かな金で裏切り犬鳴や内川から去っていった。風の頼りに聞く彼らのその後はバブルの恩恵にもあずかれず、ちまちまと生活していた。Kは還暦を過ぎて漫画喫茶の店員になった次期もあり、Tは、保証人にしていた妻を破産させ、自身は行方不明に成ったらしい。盟友の会長も淋しく死んだという。内川は、バブルの頃、犬鳴探偵事務所の調査員となり、1年ほどで、町田支局の責任者になって、その後間もなく独立したが、50歳であっけなく病死した。-------