七人の奇妙な男達 2

探偵日記 11月06日水曜日晴れ

今日は事務の高ちゃんがお休みの日、彼女は今、社労士の資格を取るべく猛勉強中。一足先に社労士となって事務所を営む我が家の娘、径先生のアシスタントとして実務を教わっている。高ちゃんは径と従姉妹同士、高ちゃんが資格を得れば二人で仕事が出来て鬼に金棒だろう。というわけで、怠けものの僕も水曜日だけは早めに出勤する。ところが、急いで出たので、ペン、メガネ、お金、などを忘れた。携帯電話は忘れずに持っている。しかし、18時、銀座の料理店で弁護士さんと食事の予定。お金が無いと困る。どうしよう。

七人の奇妙な男達 2

どちらかといえばチャランポランで怠け者の犬鳴はすぐにみんなと仲良しになった。キャバレーでアルバイトした経験が生きてそこそこに場慣れしていたのだろう。年上の彼らも普通に接してくれた。真昼間、突然訪れた若い男が何を言い出すのかと思って話を聞いてみると、いかがわしそうな会員制クラブの勧誘である。怒って追い返されるのが関の山、と思っていたが意外と好感を持って迎えられた。犬鳴以外は過去の職歴で、ゴルフ倶楽部の会員権や、別荘地の販売の経験があり、訪問営業には慣れていたし営業トークも巧みだった。犬鳴はそれらの部下よろしく大人しく相槌をうってれば良かったが、本来おしゃべりな性格なのでつい口を挟む。或る日、ビルの5階に有るなんとか工機という会社に行ったとき、まだ若い社長が大変乗り気になって話を聞いてくれた。社長が「いやあうちの会社なんて吹けば飛ぶようなもんで」と謙遜気味に言ったとき、犬鳴がすかさず(でも社長さんが光り輝いていますから)と、お世辞を言った。社長は苦笑いをしただけだったが、上司(と言っても入社時期は同じ日)のTが凝りついたような顔をした。その社長は若禿げでお頭がつんつるてんだった。

後で分かったことだが、経営者の二人は共に、当時飛ぶ鳥を落すぐらい急成長した、別荘地販売の「大京観光」の出身だった。商品は御用邸のある那須が原を区割りして販売していたが、後半は、絶対家の建たない傾斜地までも強引に売っていたらしい。そういうことに関係しているかどうか分らないが、朝礼は盛大且つ厳しいものだった。全員が社訓を大声で唱和したあと、日替わりで各人がその日の目標なり、思ったことを述べるのである。会社は、成績が上がらなければ給与の支払いの義務が無いので、日中遊ぼうとサボろうとお構い無しである。(それで困るのは君達だよ)というわけだ。

そんな時、最も輝いてみえるのが営業部長のKだった。何しろ、元、NHKの社員で、アナウンサーの経験も多少あるらしく話術に長けていた。Tは毎日、朝礼の総括で短く話しをするのだが、経営陣が舌を巻くほどの説得力が有り、会社側の信頼は頗る厚かった。犬鳴やT外数名は他愛なく、すっかりこのKの子分になって毎日楽しく過ごした。朝礼が終わると示し合わせて行きつけの喫茶店に集まってモーニングを食べ、その後、当時小田急ハルクの8階にあった(パターゴルフーーパターだけ18ホールあって、総てパー3)に行きお昼まで遊ぶのが日課となっていた。Kはゴルフもうまく、驚くことに錬金術の達人でもあった。-----------