七人の奇妙な男達 6

探偵日記 11月14日木曜日晴れ

昨日は隔月(最近は奇数月)に行うゴルフコンペ(ニ水会)の日、いつも同じコースだから、埼玉県毛呂山の「エーデルワイス」今月は4組16人で行われた。インスタート、僕は苦手な10番をパーで上がった。1日一つか二つしか取れないパーが最初から出たので嫌な予感。11番ホール、池越えのミドル、第2打目残り110ヤード絶好のポジションから。目の前は大きな池が広がっているが、池を怖がるキャリアではない。早くも(悪くてパー、もしかするとバーディも)と思って打ったら、酷くダフって池ポチャ。(泣)午後、4番ホールのショート、ピン奥3ヤード位のグリーン横に落ちた。バーディパットは僅かにはずれプライベートならOKの距離。信じられないことにこれをはずしボギー。これで緊張の糸がプッツリ切れて、戦意喪失。後はズルズルと後退し、何も商品を貰えずすごすごと帰宅。阿佐ヶ谷の居酒屋「越川」に集まってビール、日本酒、サワー、焼酎2本を飲んで21時就寝。
今朝は何時もどおり起きてご飯を食べた後事務所へ。


七人の奇妙な男達 6

或る日、Kの会社(といっても、古いオフイスビルの一室、7~8坪の小さな部屋)に行くと、Kは不在だったが若くてなかなか可愛い女の子が留守番をしている。「社長はもうすぐお戻りになられます」というので形ばかりの応接で待つことにした。どこからか電話がかかる。女性が出て、巧みな受け答えで応じた。(ハイ、研究所です)(少々お待ち下さい。社内を探しますので)と言うや、どこかのボタンを押す。そうするとアナウンスが流れ「審査部長の森下さん、外線でお電話が入っています。至急お部屋にお戻り下さい」と言っている。確か森下なんて社員はいないはずだし、第一、社内放送で探すような広さでもない。やがて、くだんの女子事務員はおもむろに受話器を持ち上げ(大変申し訳ございません。今社内を探しましたがちょっと外出したようです。折り返しお返事させましょうか)などと応えている。電話を切ったあと、女子事務員は犬鳴を見て、ニッコリ笑った。

後で良く聞くと、森下なる社員はその時電話をかけてきた金融会社に居たという。いわば、サラ金と呼ばれる店舗で借り入れの手続きをしていて、担当者が在職確認(本当に森下なる人物がその会社の社員かどうかしたらしい)の電話で、本来の社名「児童情操研究所」をはしょって研究所と応え、さらに、いかにも大勢の社員がいるかのごとく装って、スピーカーで社内を探す振りをしたのだという。聞いてみて、犬鳴は(ウ~ン)とうなって絶句した。事務の女性はさらに種明かししてくれる。今、森下を名乗って金融会社に行っているのはKだという。このように、Kと、同級生のNは、毎日色んな他人に成りすましサラ金を駆け回っているんだとも。したがって、女子事務員は、(悪いことをするK達の手助けをしている)ことになる。後日、Kに、(あの子良く嫌がらないでやってるよね)と聞くと、Kはしたり顔で、「ウン、彼女は神田のキャバレーのホステスだけど、ちょっとお小遣いをやって、毎日指名してやるって言ったら大喜びで、毎日楽しいって言ってるよ」とのこと。そのKに毎日おごってもらう犬鳴は返す言葉も無かった。

数日して、さらに詳しく聞いた。探偵の犬鳴は好奇心の塊のような人間だ。分らないことは納得するまで聞くし、実際に確認もする。KとNは、朝出勤すると、ホステスが出てくるお昼まで、その日の準備をするのだという。現在では通用しない手法だから詳しく書くが、当時の消費者金融(サラ金)は、本人確認の資料として、社会保険証書と、給与証明書だけで良かった。ただ、担当者によれば、その人間提出した住所地の地図を持ち出し、「最寄の駅からご自宅までの通勤経路を教えて下さい」と言ったり、「干支」を聞いて来る場合もあるらしい。Kらは、都内の電話帳から当日なりすます数人を抽出し、NHKの厚生部に勤務した経験上、Kが得意とする「保険証」を偽造。ついでに、自宅を地図で確認するなどの準備をして実行に移るらしい。一人7~10万円。これを1日3~4にんこなし、競馬の資金や飲み代に充てていた。Kが機嫌良く酔った時、「ワンちゃんほら」と言って、背広のポケットからサラ金の会員証を取り出して見せてくれた。ざっと、100人近い他人名義のカードの束だった。---------------------