探偵日記 11月21日木曜日晴れ
昨日は阿佐ヶ谷の老人4人でゴルフ。メンバーの一人が持っているコース、日高カントリークラブでプレーした。レベルの高いコースではなかなかいい成績は出せず悪い意味で平均した。帰宅後、旬菜「成海」で食事。ビール、ワイン、焼酎、日本酒、かなりの量を飲んだが料金は思ったよりリーズナブルなものだった。何を食べても美味しくてみんな満足した模様。帰りに「木の蔵」にちょこっと寄ってハイボール1杯飲んで帰る。ただ、僕は鼻炎が悪化、ティッシュを横に置いての酒宴となった。
今日は、数日前に検査した結果を聞きにクリニックへ。ついでにインフルエンザの予防接種もしてもらった。検査結果は予想通り数値が上がっていた。ドクターは薬を増やそうという勢いだがこれ以上クスリ漬けになるのはごめんだ。調剤薬局でお薬を貰って事務所へ。
七人の奇妙な男達 9
しかし、そんな合宿みたいな生活も僅か1年で終わった。或る日のこと、マンションの管理会社から犬鳴の電話があり、「もう3ヶ月ほど家賃が滞納になっており、このままだと出ていって頂くようになる」と言われた。心配していたことが現実となり、またひともめしそうだ。犬鳴はまず食事当番のNに事情を話したら、「お金のことはKに任せている」との由。多分そうだと思っていたので驚かなかったが、Nの意見に従い全員に報告することになった。犬鳴を含めてみんな月末には翌月の負担金をKに渡してある。少し怒り出す者もいたがそれはそれ、仲良しグループのこと、(とりあえずKに聞こう)ということになり当日夜、楽しい晩餐の後、一番年上の会長から切り出してもらった。ただ、会長は全くの無職で経費の負担を免除されていた立場上強く言えない。(あのね、Kちゃん。ワンちゃんがさ~大家に何か言われたみたいよ)と優しく言い始めた。勿論、Kにはそれだけで十分理解できたはずだ。一瞬Kの表情が曇った。
ちょっとの間もじもじしていたKだが、いきなり食堂の椅子から下り土下座した。そして、「みんな申し訳ない」といって、何と泣き出したのだ。身長こそ165センチだがでっぷりと太って貫禄十分の男がさめざめと泣く姿は、犬鳴や他の皆も予想していなかった。まさに、愁嘆場と化し、犬鳴達が寄ってたかってKを苛めているような錯覚に陥った。すると、口火を切った会長まで泣き出した。「おれが一番悪い。1銭も出さずに皆におんぶに抱っこで、こんな時には俺がKちゃんの開けた穴を埋めなくちゃあいけないんだ」という理論らしい。もう完全に6人の負けである。犬鳴とて、こういう問題を解決する能力は無い。むしろ、蚊帳の外で傍観者になりたいぐらいだ。やがて誰ともなく(まあ、後で何とか考えよう。それより麻雀でもしようよ)ということになり、早速、隣の部屋に卓を組み、あぶれた者たちは花札をすることになった。何となく「最後の晩餐」みたいな雰囲気になった。そして、渦中のKが一人勝ちした。
結局、Kが使い込んだお金は皆で補うことにしたが、(一旦解散しよう)という結論に達し昭和50年12月、奇妙な集団は解散し、それぞれの巣に帰っていった。ただ、行き場のないK等は近くのアパートに、会長を伴って転居、その後、Kは歌舞伎町の安キャバレーで親しくなったホステスの部屋に転がり込み、Nは渋谷の焼き鳥やの住み込み店員となった。会長は高齢の実姉の家に居候を決め込み、昼間はKや犬鳴とつるんで毎日競馬場に夢を求めた。犬鳴はこの1年間で、その他の者たちとも絆が深まり調子よく付き合ったが、そうした関係はそれから7~8年続き、中でも、Kと根っからの詐欺師Tとは深くからみあい、散々迷惑を被った。--------------