偽装結婚 その4

探偵日記 10月24日水曜日

僕が昨日地元の病院「河北総合病院」に行ったことは書いた。今まで、20数年間、事務所に近い「東京女子医大病院」に通っていたが、家族のすすめもあって転院した。昨日、保険証を忘れ、事務員に、「自費になります」と言われ、ここんところ良く来ているのに、診察券では駄目なのかな。と思ったが、事務の女性は頑としてノーと言う。まあ、忘れた僕が悪いのだからと思い、本日、領収証と健康保険証を持って差額の精算に行った。

二つを差し出し、(昨日保険証を忘れたので)と言うと、「診察券はお持ちですか」と言う。(いや持ってません)と言うと、不服そうな顔で会計に回され、703のカードを渡された。やがて、番号が呼ばれ会計に行くと、「身分を確認できるものをご提示下さい」と言われた。少々ムっとした僕は(健康保険証をお渡ししてますが)と言うと、それ以外のものを。と言う。じゃあ、運転免許証を持たない高齢者はどうするんだろう?と思ったが口にせず、(僕の身分は保険証で確認出来たでしょう)と応じたが、どうしても駄目だと言う。僕は、したり顔でカウンターに座っている女性の顔をまじまじと見つめ、それでも仕方なく免許証を提示した。

改めて、転院した軽率さを反省する。どんな業界も質やレベルの違いはあるものだ。彼女らの辞書に(融通)という文字は無いんだろうか?(だからこの病院は、死に来た病院と揶揄されるんだ)と言いかけたが、まあこれから長い付き合いになるかもしれない。と、思い直し我慢した。ただ、もう一度このようなことがあったら、この病院はやめよう。

偽装結婚 その4

金曜日、いよいよ、伊東弘美に係わる調査を行なう日がやってきた。午後6時、新宿駅東口の喫茶店「椿屋珈琲店」に、結婚相談所の所長「月形某」と、依頼人と婚約したあと、携帯を着信拒否にして、故意に連絡を途絶えさせた「伊東弘美」が来るはずである。僕は、「お金が無い」とボヤク依頼人に、(忘れたって言えば良い。少し怒るかもしれないけど、次に会ったとき必ず渡すといえば了解するから)と言い、敢えて、二人に渡すお金は用意させなかった。

依頼人と会う女性二人のうち、若い方を尾行し帰宅先を確認する。ただ、調査員達は依頼人の顔を知らない。仕方なく僕も調査に加わることにした。チャンスは一度だけ。失敗は許されない。僕は、4人の調査員を喫茶店に待機させ、まず、やがてやって来た依頼人を調査員らに認識させ、女性二人が合流したところで、チーフの斉藤に(じゃあ頼んだよ。)と言って、現場を後にした。短時間だったが、二人の女性を脳裏に焼き付けた。月形が主犯、伊東は駒だろうと思った。ただ、魔法使いのおばあさんみたいな月形に比べ、伊東弘美は楚々とした印象でスタイルも良く、美人の部類に入るだろう。知識レベルも高そうだった。------