偽装結婚 その7

月形らの連絡は意外と遅かった。前回は依頼人が、お金を持ってくるのを忘れた。が、次に会う時は間違いなく数十万円を手にすることが出来るはずである。なのに、何故?と思った。本当に何故だろう。もしかしたら、伊東弘美がこちらの尾行に気づいたということはないだろうか。比較的大雑把なくせに、妙なところで心配性な僕は、色々思いをめぐらせたが、解答は出ないままその日がやって来た。

僕は、調査員に、(マルヒがちょっとでも警戒する素振りを見せるようなら調査を中止するように)と指示し、別班の調査員を、先日マルヒがバスを降りた停留所で待機させた。依頼人から僕に、「今伊東らと別れた」という連絡を貰うようにしてあったので、マルヒがバス停に現れるおおよその時間は計れるはずだった。ところが、チーフの斉藤からの連絡で、(全く警戒する様子はありません)と言ってきた。どうやら僕の取り越し苦労だったようだ。

午後9時25分、依頼人と二人の女性がレストランを出たところで別れた。斉藤からの連絡があった直後、依頼人からも「今別れました」という電話がかかった。僕が(お金を持っていかなかったので、月形に怒られなかったですか)と聞くと、依頼人は「散々叱られました。明日か明後日僕の勤務先まで受け取りに来るそうです」と、困ったように言っている。僕は、今日は間違いなくマルヒの住所を突き止められる。という自信もあったので、(分かりました。今後は月形の電話を受けないよう、留守電にするか着信拒否にして置いて下さい)と言って、(心配しないで下さい。あと数日で全体像は判明しますから)と付け加え、まだ何か言いたそうな依頼人との電話を終えた。

レストランを出た月形とマルヒは、バス停近くの路上で、なにやら深刻な表情で話し合っていたが、その後、月形と別れたマルヒは前日と同じバスに乗った。斉藤らは、世田谷区内のバス停で待つ調査員と連絡を取り合い、マルヒを監視しながら尾行を続け、約20分後、例のバス停に到着、マルヒが下車する。

しかし、この日は、後ろを振り返ることも無く、ゆっくりと歩き、とあるマンションの一室に、自らバッグから取り出した鍵を使って入室した。この間、およそ30分、調査員は、徒歩尾行と車両班に別れ追尾、やや緊張したものの、マルヒ(伊東弘美)の自宅はあっさり判明した。

メールボックス及び、部屋の玄関に氏名の表示は無かったが、ガスメータの使用者蘭に「田中幸子」とあり、一応、この時点で、伊東弘美=田中幸子と判断できた。---



探偵日記 10月27日土曜日

我が家の愛犬「タイちゃん」の元気が無い。ここ数日、朝5時になると散歩をせがみ、勢い良く外に飛び出すものの、その後の動きは悪く、のたのた。という感じで歩き、散歩の範囲も極めて狭い。今日など、1回目のウンチをした後、ゲーをし、白い液を吐く始末。路地の角に来ると頻繁に僕の顔を見つめ(どっちに行こうかな)と迷う素振りを見せる。僕が、(どうしたのタイちゃん。どっちに行きたい?あっち?こっち?)と聞いても、歩こうとせず、僕がリールを引いて歩こうとしても、足を踏ん張って抵抗する。そんなわけで、これまで、1時間の散歩で4500歩だったのが、ここ数日は3000歩前後である。どーしたんだろー

家に帰って、調べてみたら、体中に湿疹みたいなものが出来ている。そこが痒いらしくしきりに掻いている。奥さんは、(蚤がついているんじゃあない。貴方、草むらに入れたでしょう)などと、非難する。確かに、彼はそういうところが好きで、頭から突進するように入って行く。僕は、(好きな女の子の匂いでもあるんだろう)と思い好きにさせているが明日からは考えなければいけない。

僕の地元阿佐ヶ谷では、昨日今日と、ジャズフェステバル。今朝も、JR駅前で軽快なリズムの演奏が流れていた。加えて、金メダリストの吉田さほりさんが訪れるとかで、大いに盛り上がっている。皆さんもいらっしゃいませんかーーーーーーー