メガバンク 4

探偵日記 4月4日金曜日 曇り後晴れ

今朝は普通に起きたが何となく体調が優れずグズグズし、お昼近くに事務所へ。本当は休みたかったのだが、夕方、報告が1件あり、その書類の整理もしなければならず、また、藪用も出来たので電車に乗った。相変らず肩が痛い。シャワーの時、不用意に体をひねったら肩の下辺りに激痛が走った。(何の因果で)と腹立たしく思うが、周りの人も一度は経験していて、(長いよ)と脅かす。なにか、或る日急に治っている。とも言う。その日を楽しみに我慢しよう。



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「お車ですか」青柳氏が聞く。犬鳴は(いいえ、生憎雪道を走ったことがありません。電車で参りました。)そう応えると、「じゃあお送りいたしましょう」と言うのを、恐縮しながら丁重に断って外に出た。1時間あまりの間に一層降り積もり、土曜日で歩行者の少ない歩道はくるぶし以上埋まりそうである。しかし、さすがに東京駅に近いだけあってタクシーはひっきりなしに走っている。ちょうどやって来たタクシーを止め、(新宿一丁目)と告げる。手には大金の入った紙袋を持っている。このまま雀荘というわけにもいかないだろう。事務所の斜め前にある大東銀行のATMで入金しようと思って、ああそうだ、たった今訪問した依頼人も同じ銀行だったことに気がついた。(なんだ、あそこで入れておけば途中下車することも無かった)

タクシーは雪道を走りにくそうに走り、やがて事務所の前に到着した。何となく周囲を見回し銀行へ。200万円づつ機械に入れる。計15回の作業で入金が終わり事務所には寄らずに雀荘に直行。しかし、雀荘にはママとメンバーと称す従業員だけ。ママが「ワンちゃんこんな日に珍しいわね。私達だけで良かったらやりますか」と、笑いながら言う。そうだね、時は金なりって言うからやろうやろう。と言ってゲームが始まった。すると、同じように暇を持て余す奴はいる者で、T弁護士と、体重が120キロあるという薬剤師が時間差を置いてやってきた。(なんだ先生、行くとこないの)などと軽口をたたき、3時間ちょっと麻雀を楽しんだ。しかし、分らないものである。この日の犬鳴は神がかりで、最初から最後までほとんどトップ。帰りのタクシーに乗ってポケットを見ると、何と、12万円勝っていた。

阿佐ヶ谷に帰り、商魂たくましい居酒屋で軽く食べて、(さすがに今日は休んでいるだろう。)と思って路地を曲がってみると、天国に一番近いスナック「ほろよい」は、その怪しげなネオンを灯していた。犬鳴が入ると、強欲な(失礼)ママと、チーママの美穂乃ちゃんが「さすがワンちゃん」と言いながら歓待してくれる。すると、犬鳴が呼び水になったか、次々に馴染みの顔がやってきて、毎度のように午前様となった。

翌日曜日、主だった調査員と電話やメールで打ち合わせ、月曜日早朝より、藤井鉄夫を被調査人とする特殊実態調査に着手した。午前7時、成城5丁目にあるマルヒの家の前で張り込み開始。久しぶりの大きな仕事である。犬鳴も参加して、思えば、この日から1年以上にわたって行われた調査が始まった。ーーーーーーーーーーーーーーー