探偵日記 4月5日土曜日晴れ
今朝も何時もどおり7時半起床。8時にご飯を食べて、少し横になってテレビをつけたら大リーガーの試合、ヤンキースとブルージェイズ戦で、ヤンキースのピッチャーはマー君こと「田中将大」をやっていた。公式戦初登板という。日本にいるときは特に見たいとも思わなかったが、米国に渡っての活躍は気になるところ。マー君は7回を投げて勝利投手の資格を得たまま降板した。その後支度をして出掛けたので、結果は見ずじまいだが、かの国では、6回を投げて3点に押さえれば、「クオリティーデビュー」と評価されるとか、やはり実力があるのだろう大したものだと感心した。素人目で申し訳ないが、今日のマー君は本調子ではなかったように思う。緊張もしただろうし、丁寧に行き過ぎているようにも感じた。
12時、事務所に着く。今日はこの後八王子のほうに行かねばならない。もう随分前に終わった調査の依頼人から、食事に招かれている。
メガバンク 5
07:00、妻と思われる女性が新聞を取り込む。チラッと見ただけだが結構美人でスタイルもなかなか良い。ただ、何となく覇気が無く、心中鬱々としたものがあるのだろうか。犬鳴の悪い癖で先走った印象を持つ。子供二人が母親に見送られて出てくる。多分学校に行くのだろう長靴を履いている。この日もまだ、二日前の大雪が残っており、調査車両もスタットレスを履いている。07:45、N交通のハイヤーが玄関前に横付けされ、間もなく、妻に見送られてマルヒが姿を見せる。運転手が恭しく挨拶をして後部座席のドアを開けマルヒをいざなう。マルヒは、形ばかり妻に合図して車に乗り込む。ハイヤーは砧から世田谷通りに入り、環状8号線を左折。首都高に入り都心に向かう。犬鳴は、(ふ~ん大東銀行では部長もハイヤーで送り迎えか)羨望も交えながらそう思い、今日から徹底的に調べられるマルヒの境遇に思いを馳せた。本人は、まさか勤務先が自分のことを調べるなんて夢にも思っていないだろう。そして、もし、依頼人側にとって好材料が出たなら、以後の昇進は間違いなくストップするし、かなりの確立で外に出されるだろう。
そんなことを考えているうち、ハイヤーは丸の内から一般道に出て、新幹線のガードをくぐり鍛冶橋を右折。中央郵便局前で停車した。マルヒが下りるとハイヤーはすぐに走り去る。下車する時、運転手は下りてこなかった。マルヒは何気ない素振りで周囲を見渡しながら、数分かけて大東銀行本店のビルに入っていった。ハイヤーはあと数秒で大東銀行の本店に到着するのに、わざわざ手前で下り、その後徒歩で勤務先に向かったことになる。社内規定で、たとえ幹部職員であっても送迎の事実を一般職員の目に付かないように。ということなのか、或いは、ハイヤーの運転手に勤務先を知られたくないのか。まあ、そんなことはないだろうが、この日のマルヒの出勤状況は犬鳴に一つの疑問を投げかけた。
同日夜、勤務先を出たマルヒは同僚らしき男性数人と銀座にくりだし、5丁目の「鳥ぎん」で焼き鳥を食べた後、こじんまりしたクラブに入った。8丁目のウオータービル8階にある「ラビリンス」午後11時、店から一人で出てきたマルヒは、ホステスらに見送られ土橋の近くまで歩き、路上で待機していた朝のハイヤーに乗り込み、11時55分帰宅した。犬鳴は、調査員の一人に、明朝、(マルヒがハイヤーを下りた時間帯に同じ場所で張り込むよう)命じ、それぞれに夜食代を渡して解散した。-------------