メガバンク 16

探偵日記 4月18日金曜日曇り時々雨

今日は日本橋のI社長とランチの約束があり11時に会社に行く。食事をご馳走になりながら四方山話。もう86歳というのにお元気で、毎朝、トヨタのスープラ(2ドアのスポーツタイプ)で出勤する。男二人のフリーミーティング、行き着くところは女性談義になり、最近知り合ったというNY帰りのダンサーの写真を見せてもらった。スタイルの良いなかなかの美人。年齢は40歳と少しか。(どうして知り合ったんですか)と聞くと、僕も知っている「あの、オペラ歌手がランチを奢ってくれって言うからOKすると、友達を連れて行ってもいいか。」と言って連れてきた女性なんだそうだ。それが1ヶ月前のこと、それからもう3度デイトし、京都にも1泊旅行をしたとか。財力は勿論のこと体力及び気力で大きく差をつけられた。がっくりして事務所に戻る。


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ふ~ん。犬鳴は思案した。年齢的にも、また、日中数時間留守に出来るということは支店長クラスに違いない。それに、当然、笹田家のメインバンクであろうから、知り合うきっかけは充分すぎるほどあるはずだ。多分、静枝のほうから積極的にアプローチしたのだろう。サラリーマンが、上司の妻にちょっかいを出すことはない。まかり間違えれば人生を台無しにしてしまう。まあ、現状が知れれば同じ結果になるだろうが。静枝にしてみれば、半分養子みたいな夫に対したかを括っているとも考えられる。しかし、とはいってもばれることは避けたい。何にしても、夫にイニシアチブを取られるのは得策ではないし、どだい「秘密」というもの、密なるをもって行うから刺激があるのであって、おおぴらでは面白くない。

翌日、付録みたいに男の住所が判明したと野仲から報告があった。やはり大東銀行の支店長で、勿論、妻子もある。犬鳴は、他人事ながら(どうするんだろう)と同情した。犬鳴が勝手にこうした情報を操作することはない。総て、青柳氏とその背景が決めることだ。ただ言えることは、高額な費用をかけて得たダイヤモンドの情報を使わない手はない。必ず、何処かの場面で披露され、これに抵抗したら決定的な終焉を迎える。妻には泣かれ、もし、嫁入り前の娘が居たら破談になることもあろう。立場のある人は迂闊なことは出来ない。自分だけでなく大事な家族にもとばっちりが行くのだ。

2日後、青柳氏に連絡を取り、何時もの割烹で落ち合う。月曜日の結果を報告しながら豪華なランチを頂き、次の作戦の指示を受ける。「犬鳴さん、例のやつ振り込んでおいたからね」と言う。犬鳴は(有り難う御座います)と丁寧に礼を述べ、青柳氏の次の言葉を待った。----------------