メガバンク 15

探偵日記 4月17日木曜日 晴れ

昨日の弁護士事務所訪問はちょっと行き違いがあり今日になった。11時30分、京橋の法律事務所へ。すでに依頼人は父親同伴で来ており、打ち合わせに入った。何処の親も同様で、特に娘のこととなると父親はいてもたっても居られないらしい。真面目そうな人で、依頼人は可愛い女性だった。年の頃は32~3歳か。
申込書にサインしてもらい12時40分帰社。事務所近くのお蕎麦屋さんでランチ。


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事務所からホテルまで10分足らずで到着。静枝や調査員はまだ着いていない。犬鳴は1階にある広いラウンジに入りコーヒーを注文して調査員の野仲にメールを入れる。折り返し返信が届き、「駐車場から真っ直ぐ23階の部屋に入りました。)と。静枝がノックをするとすぐにドアが開けられ、すべり込むように入室したという。これで9分9厘静枝が不倫していることが推測出来た。あとは、相手の男がどんな奴かだ。まもなくお昼時である。調査員らをラウンジに呼びちょっと高価なランチを奢ってやる。ゴミの山から拾い出したここのレシートには確か14時過ぎのタイムが印字されていた。それまでは出てこないだろう。

13時半、調査員はそれぞれの配置につく。犬鳴も加わりたかったがあまり大勢でも目立つと思い諦めた。そのかわり、野仲に(マルヒをひと目見せろよ)と頼み、今度はフロント脇の椅子に座って待つことにした。待つこと1時間。エレベーターから下りてきた男性の後から野仲が歩いてくるのが見えた。犬鳴を見て、人差し指で(これです)と合図を送ってくる。男は、何処にでも居るようなサラリーマン風の奴で、真面目な印象を受けた。何がきっかけで知り合い、不倫関係になったのか分らないが、男にとって、相手に不足はないだろう。もしかしたら、ちょっと年を食ったツバメかな。などと、またもや犬鳴の、悪い妄想癖が出た。10分ぐらい遅れて静枝がロビーに姿を現すと、すでにラウンジでコーヒーを飲み始めている男の席に向かい、如何にもたった今落ち合ったような感じで椅子に腰を下ろす。(お待ちになりました?)(いや僕も今来たばかりです)という会話が聞こえてきそうな雰囲気だった。

犬鳴はじっくり静枝を観察して、(じゃあ俺は引き上げるから、男のやさを確認しておけよ)と、野仲に告げて事務所に戻った。今回の調査は盛りだくさんの情報が得られた。最初のマルヒ「藤井鉄夫」は、高級マンションに愛人を囲い、どうかすると、真昼に訪れたりしている。これは青柳氏の手によるものだが、莫大な横領も発覚し、あと少しで、マルヒの命運も尽きるだろう。といっても、マルヒが刑事事件に問われたりすることはないだろう。大東銀行の上層部なら誰でもやっていることだし、銀行も公に出来ない引け目を持っている。案外、藤井もその点は心得ていて、万一退職せざるを得なくなったとしても、一生暮らせるお金は隠匿しているはずで、(どっちに転んでも構わない)覚悟は出来ているだろう。そんなことをぼんやり考えている時、野仲から連絡が入り、(あいつ、田園調布支店の職員でした)と言ってきた。----------------