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探偵日記 4月1日火曜日 晴れ

今日はエープリルフール。西洋の習慣で、この日だけは嘘をついてもいい日。とされている。騙された人を(四月バカ)と言うらしい。子供の頃から(嘘つきター坊)と渾名されていた僕は成人してからも癖は治らず、古希の今もなんかしら嘘をついていないと落ち着かない。もうほとんど病気に近い僕の嘘だけど、金品を得るような営業には使用しないし、人を悲しませるような嘘もなるべくつかないようにしている。したがって、他人を悲哀の底に落すような嘘や、後で自分に返って来るようなものも控えたい。(まいったよ。山口の俺の家めがけて北朝鮮のミサイルが飛んできて)ぐらいはいいだろう。

今日からタイちゃん(我が家のわがまま犬)の散歩をするという奥さんとの約束は守れなかった。彼は最近3時半ぐらいに起こすらしい。僕はとても起きれない。特に昨日は久しぶりに日本酒を3合飲んで酔ってしまい爆睡した。明日も寝たふりしよう。


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このところ犬鳴探偵事務所は暇である。事務所に行ってもやることはないが、貧乏性の犬鳴は家でじっとしていられず、ついつい出てきてしまう。麻雀をする午後3時か4時まで所在無げに机に向かうが、日経新聞もあっという間に読み終え、血圧の記録をつけ、ブログを書き終わるとその後の数時間を消化するのに苦労する。それでも数年前までは、歌舞伎町でホステスをしているガールフレンドがいたから、良くランチに呼び出され良くも悪くも時間が潰せた。不景気になってガールフレンドとも疎遠になって、この頃はもっぱら調査員とつるむことが多い。

2月7日金曜日午後2時。何時ものように若い人たちとのランチを終え事務所に戻ってきたら、まるで何処かで見ていたようにデスクの固定電話が鳴った。最近滅多に鳴らない代表電話がけたたましい音で犬鳴を催促する。調査員も事務の高子も、犬鳴が出るものとばかりに知らん顔だ。(ハイ、探偵社です)受話器を上げるなり鸚鵡返しに応える。事務の高子はきちんと事務所名を言って出るが、犬鳴は長年の癖でそう言った。「あ、ワンちゃん珍しいじゃあない真面目に事務所に居るなんて」電話の主は水元弁護士だった。これも癖で(どうもどうも)と応じながら弁護士とのやり取りが始まる。依頼人を紹介しようということだった。願ってもない話で、今の犬鳴にはどんな小さな案件でも飛びつきたい思いだが、誰に対してもガツガツしない。見栄っ張りなのだ。

「あのさ~俺の同期で青柳って奴が居るんだけど話を聞いてやってくれない」水元弁護士とはもう20年以上の付き合いで、彼がイソ弁(先輩弁護士の事務所に雇われ、居候みたいにいる若い弁護士のこと)の頃に知り合った。勿論ボス弁を通じてのものだったが、犬鳴よりひとまわり以上年下の水元とは妙に波長が合った。若いせいか度胸も良く、手際も明快だった。特に、調査費用のことなど、犬鳴にあれこれ言わせず、「100万円でやって」と、問答無用だ。犬鳴もそんな水元が好きで時々は飲みに誘うし、ゴルフの手ほどきもした。そんな間柄だから彼も年上の犬鳴を、ワンちゃんと呼ぶ。

水元の申し出を断る理由はまったくない。犬鳴は二つ返事で了承した。水元の話によると、「彼は今、大東銀行の本店に居るんだけど、確か次長だと思う。とにかく信用できる探偵を紹介してくれってさ」ということらしい。水元の同期というからには、青柳という人も東大卒のはずだ。水元弁護士はさらに、「個人的なことじゃなくって会社のなんからしいよ」とも言っていた。犬鳴は何気なく聞きながら、何となく金脈の匂いを嗅いだ。まあ、早合点は禁物だが。----------