探偵日記 4月21日月曜日 曇り時々雨
今朝も少しばかり真面目に、10時に事務所へ。高ちゃんの出してくれたヤクルトとお茶を飲み日経に目を通す。株もやらず、我が国の経済にほとんど関心はないが「探偵」としての、日々の努力として必要最小限の知識を得るためだ。
机の上に、送られてきたらしい履歴書が2通置いてある。26歳と32歳の男子。僕的には、ちょと気のきいた女性が欲しいと思うのだが、(面接をして見たら)と、メモ書きをして所長の机に戻す。とにかく調査員が必要である。土曜日のように3件も尾行が重なれば、老コナンまで借り出される。ちなみに、19日の土曜日は、計8時間立ち張り(状況的に車両での張込ができず、場所を変えながら立って張り込むこと)をして、0時半に帰宅。簡単にシャワーして、1時過ぎに就寝。翌朝5時に起床。迎えの車でゴルフ場へ。という、過酷なスケジュールになってしまった。ゴルフを終え、阿佐ヶ谷のレストランでパーティ。よせば良いのに、かの有名な、天国に一番近いスナック「ほろよい」に行き、またしても帰宅は0時半。誰も同情してくれないだろうが、(ああ、疲れた)
メガバンク 18
青柳氏からGOサインが出て最後の業務を開始。犬鳴はこれまでの調査を振り返り、改めて、まとめた報告書を見直す。このどの部分を活用するか依頼人と相談する必要がある。記事の内容によっては出所を推測されてしまう危険が生じる。まあ、この種のことは、どんなにカモフラージュしても、あれこれ考える中の一つに含まれてしまうが、人間とは不思議なもので、まず的確には当てられず、大概は見当違いの犯人探しに終始する。昔、ある教育者が不倫して、ブラックジャーナリストに脅された。弁護士事務所に、マルヒと相手女性、それに、マルヒの妻が同伴してやってきた。ミーティングに加わった犬鳴は居心地の悪い思いで話を聞いたが、後で、弁護士も犬鳴と同じ気持ちだったようだ。マルヒは立場のある人物で、相手の女性も同じ教育の現場に属す人だった。「絶対に公けにしてもらっては困るんです。先生、何とかお金で解決してくれませんか。」三人は、必死の様相で懇願していた。
何故、探偵の犬鳴が呼ばれたのか。ジャーナリストは名刺を置いていったので、まず第一の仕事は(身元の確認)調査である。次は、弁護士がマルヒの委任を受けて、近々会うジャーナリストの尾行であった。名刺は出したもののはたして本物かどうか分らない。だから、実態を探る必要がある。というのが全員の一致した考えだった。勿論、犬鳴もその考えには異存がない。ただ、何となく違和感を覚えた。普通、浮気した夫の窮地を救うためとはいえ、本来なら、慰謝料を取った上でぶん殴りたいほどの女性が目の前にいる。同席さえしたくないだろうに、共闘するという。余程心の広い女性なのか、はたまた世間知らずか、或いは、夫が世間のさらし者になれば自分も傷つく。だからそれだけは避けたい。と思っているのか。
今はもう無いが、その頃、新宿駅東口に「滝沢」という喫茶店が有った。弁護士とジャーナリストはそこで会うことになり、多少危険を感じたらしい弁護士は、「犬鳴さん、僕の席の近くに居て下さい」と言う。犬鳴は、調査員数名を連れて滝沢に行き、弁護士とジャーナリストを包囲して座った。尾行した結果、ジャーナリストは表札の出ていないマンションの一室に帰宅した。その2日後、エセジャーナリストは逮捕され、その後、マスコミを賑わすことになったが、逮捕容疑は、犬鳴が係わった件ではなく、別の容疑で、(お助けマン)という、困っている人の依頼を受け、問題を解決する。ことを生業にしていたが、脅迫や恐喝まがいの行為をしたらしい。結論は、マルヒの妻が依頼した相手も同一人物で、妻は、そんな形で夫を怖がらせ、素行を改めさそうとした。
本件に戻る。犬鳴はその日から精力的に行動した。まず、本物のジャーナリストSと会い打診する。1を言うと10を理解するSは犬鳴の話を聞き破顔した。「分った。要するに、ワンちゃんは勿論のこと、その先が出所って分らなきゃいいんだね。」とにかく物分りがいいのだ。(じゃあ頼だよ。全部終わったら1本だすから)と言って、(とりあえず)と言って、100万円渡すと、Sの表情が一瞬引き締まる。「ワンちゃん、じゃあ早速これからあいつを呼んで飲みますか」と言って、Sの子分で、暴露記事専門のウエブを立ち上げているYに電話した。犬鳴はYも認めていた。話をしていても何を言ってるのかわからないような、トボケた男だが、どうしてどうしてなかなか冴えた人物である。-------------------