メガバンク 13

探偵日記 4月15日火曜日 晴れ

朝、何時もの時間にご飯を食べてグズグズしていたら、A弁護士から電話があり、浮気調査の依頼をしたいので事務所に来るように。との由。今日でもと思ったが、先生の都合で明日11時半となった。A法律事務所は京橋にある。依頼人の奥さんはなかなか出来る人らしく、マルヒの行動を、自分の力である程度絞込みを済ませており、探偵に最後の詰めをさせるようだ。つまり、夫が相手女性の家に出入する場面を写真に撮って欲しい。ということだろうと、勝手に推測する。最近は探偵の三種の神器を一般の人も利用する。まあ、賢い手段であるが、薄皮を一枚一枚剝いで行きながら真実に到達する。という醍醐味は味得ない。



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そのほか、笹田家の日々の暮らしを想像させる資料は盛りだくさんに出てきた。妻が夫に伝える伝言メモ、例えば、ご近所の誰それさんが亡くなったとか、親戚からの電話など、静枝の人となりが想像できるような、綺麗な文字で書かれた紙片や、スーパーで買い物をしたレシート等。したがって、犬鳴には、笹田家のその日の献立が手に取るように分った。犬鳴は、それから暫くの間総会屋木下のことで頭が一杯になり、知り合いのマスコミ関係者の間を聞きまわった。といっても、担当直入には聞けない。彼らは非常に勘が良く、犬鳴の言葉一つで大きな山に嗅ぎつく、実際に、A週刊誌の記者や、ブラックジャーナリストのYなど、「何や、ワンちゃん詳しく教えてよ」と言って食い下がられた。犬鳴は、(いやあ、ちょっと別件で参考までに知りたいだけだよ)と逃げを打ったが、悪感情だけは抱かれないよう気をつけた。というのも、近い将来、彼らの力を借りなければならない場面が来るような予感がしていたから。

大東銀行と木下の関係は明瞭で、木下は昔から大東銀行に於いては、与党の立場を守っていた。いわゆる、総会の時、賛成を連呼する役割を果たしていたようだ。ただ、総務の担当者でもない常務の笹田が接待しなければならない理由が掴めない。そんな状況で、割烹Kで青柳氏と会う約束が出来た。GWの話になり、犬鳴がオランダに行ったことを言うと、青柳氏は「へ~探偵って儲かるんだね~」などと、冗談めかして嫌味を言いながら「私はそれどころじゃあありませんでした。女房や子供達に散々文句を言われましたけど、今大事な時ですから」と言う。犬鳴は、オランダのこと言わなきゃ良かったな。と反省したが、どうせ、その話になるに違いない、その時、(帰省してました)と嘘を言ってもしょうがない。むしろ、後で知れるよりはいいだろう。と思った。これまでの報告がひと段落したとき、犬鳴が、「青柳さん笹田常務の奥さんご存知ですか」と聞くと、青柳氏は「うん、知ってるよ。大学卒業後ちょこっとうちに居たらしいね。大層美人で資産家の一人娘って言う話だけど」と応じた後、「なんで?」と聞き直す。犬鳴は、いや、特にどうってことはないんですが、因果な商売で、どうしても自分の都合の良いほうに考えちゃって。と、前置きして、赤坂のホテルの喫茶店のレシートの話をした。当然のことだが、笹田本人ではないし、二人の子供でもない。とすると、静枝が利用したと考えられる。じゃあ誰と。青柳氏もその点に興味を抱いた。

すでに人妻になっているとはいえ、資産家の一人娘で美人。である。犬鳴自身、直接本人を見たことはないが、まだ40歳前半であるならば、大人しくばかりしていられない。かもしれない。仮に、彼女に愛人が存在したならば、(充分利用できます)青柳氏も漠然とした考えの中でそう言い切った。風説に因れば、笹田常務も浮いた噂がないわけじゃないらしく、銀座のママと懇ろになって、そのママの内縁の夫というヤクザに大金を払った。とか、行内の女性秘書との関係も取りざたされたことがあるらしかった。貴方がそうなら私だって。静枝がそう考えたかどうかは分らないが、調査する価値はありそうだ。この日二人は、静枝の相手を確認することで意見が一致して別れた。--------------