探偵日記 4月23日水曜日 晴れ
昨日一昨日と続いた寒々とした日も終わり、今日は快晴。事務の高ちゃんがお休みなので早々に支度を済ませて事務所へ。10時前に着いた。数日後に控えるGWのせいか、気ぜわしい。10日近く休むので片付けなければならないことが沢山あった。シティボーイの僕は田舎が苦手だ。うり坊が玄関先に現われるのは可愛くて良いとして、そのこの母親に凄まれるのはごめんである。また、ありんことか様々な虫達も我が物顔で出入する。蜘蛛やヤモリだって居る。だから、東京に向かう帰路、諏訪湖を過ぎた辺りから俄然元気になる。やっと苦しい修行を終えた若い僧のように。
メガバンク 19
いずれもブラックジャーナリスト同様のSやYと飲む酒は美味しい。回転の速いSの暴露ネタや何を言っているのかわからないけど、結構際どい話題をとつとつと話すYの話も興味深い。今日の彼らは犬鳴の提供した情報に少なからず興奮気味である。100万円を懐にしているSなど上機嫌でぐいぐい飲んでいる。犬鳴は、Sの酒が決して良くないことを知っている。但し、飲みすぎたらの話で、焼酎1本位ならまだ大丈夫だ。目の据わらないうちに退散しようと考え、(じゃあ、Sちゃんよしなにな)と言い、続けて、Yにも(ちゃんと謝礼は出すから面白く書いてよ)と言って席を立った。Sも年長の犬鳴と飲むより、子分みたいなYを相手のほうがいいだろう。恐らく、二人はこの後、歌舞伎町のキャバクラに行くんだろう。犬鳴も以前一度だけ付き合ったことがるが、全員同じような化粧をして脱個性の女の子を相手にしても疲れるだけだ。それでも犬鳴が座を盛り上げようと駄洒落を言ったら、席に居た女の子全員が(うっそ~きも~い)とか、(いやだ~信じられな~い)と言いながら犬鳴を本当に気持ち悪そうに見たものだ。その日以来、キャバクラなる所には決して行かない。
Sの所の写真雑誌は今日が締め切りで「任してよ、次の週には見開きで載せるから」と、大見得を切って引き受けた。Yも、「分りました早速書きます」と言っている。二人はこの他数社に持ち込んで、まさに、四方八方から艦砲射撃するように、マルヒ達のことを面白おかしく書くつもりのようだ。会社的にも思わぬネタが転がり込んできたわけで、もしかしたら大化けするかもしれない。これまでの経験から、スクープを出せれば10万部や20万部多く売れる。ことを犬鳴も承知している。だから、本当は、犬鳴のほうがネタ提供の謝礼を貰いたいぐらいである。昔、当時大騒ぎになった詐欺事件があり、ひょんなことから犬鳴は1枚の写真を手にしたが、これが大変な代物で、詐欺の主犯と時の総理大臣が仲良く並んで写っているものだった。勿論、Sの手柄にしてやろうと思い渡してやったが、「会社が、どうしてもお礼したいと言っている。」と言うので、口座番号を教えたら、数日後、何と、5万円振り込んできた。
そんなことを考えながら帰途に着いたのだが、その日は、大東銀行の株主総会まであと3週間だった。ーーーーーーーーーーーーーー