探偵日記 4月16日水曜日 晴れ
上着が要らないくらいの陽気だと15日の天気予報は言っていた。その通り、寒がりの僕も、今日は下着のユニクロを脱ぎ捨てパンツ1枚で事務所へ。勿論、その他のものは着用。11時、事務所を出て、日比谷の弁護士事務所へ。
メガバンク 14
笹田の尾行を担当していた野仲と山口に、笹田の妻静枝の素行調査を指示。まあ夫が家に居る日は出掛けないだろうと判断し、その日は木曜日だったがスタートさせる。静枝にしてみれば、とんだとばっちりで迷惑な話であろう。良くは分らないが、夫の勤務先で展開されている派閥争いに巻き込まれ、まさか自分のプライベートまで白日の下に晒されようとは思っても居ないだろう。何も無ければ良いが、もし、人に知られたくない秘密があったならば、幸いにというか木金の両日は何事も無く終了した。犬鳴は、月曜日を楽しみにしていた。ゴミの中から出てきたコーヒーショップのレシートは確か月曜日だった。不倫カップル達は何故かパターンを作ってしまう。最初は行き当たりばったりの逢瀬だが、ある程度関係が安定してくると(じゃあね)というひと言で通じ合う。お互いの生活もあるしそれぞれ配偶者が居たならば、心おきなく会える時間は限られる。それが、静枝の場合月曜日ではないかと、犬鳴は思うのである。
青柳氏との話し合いで、笹田常務と総会屋木下のことは写真に留め、深追いはしないで置こう。ということになった。相手が相手だけに、返す刀で切られるのも嫌なのだろう。万が一の時に使うべく、写真などは厳重に保管したようだ。その後の社内調査で、藤井鉄夫の不正も明らかになり、その中に、新宿支店時代、捧公子を部下にしていた頃、かなりの金額を横領していた。さすがに、経理畑の熟練者らしく、極めて巧妙に行われ、普通の監査では到底発見できなかっただろう。と青柳氏は言っていた。彼がくすねた金は、銀行のものでもなく客のものでもない。要するに、不良債権の処理に便乗したトリックを使ったもので、仮に、行内で発覚しても決して公に出来ない代物のようだった。そうして得た莫大な資金を元手に、公子の名義で幾つかのマンションを購入する傍ら、株式にも投資していた。特に、海外の投資物件では荒稼ぎしていたらしい。
月曜日午前11時、野仲からメールが入る。「マルヒは自分のベンツで外出。仲原街道から、今、戸越で高速に入りました」と書いてある。もし、赤坂に向かうなら飯倉辺りで降りるのだろうか。と思っていると、今度は電話で、「霞ヶ関で降り議事堂前を通過してホテルのほうに向かっています。」という報告が入る。あと10分もすれば、静枝の不倫相手が分るはずだ。犬鳴は(よし、俺もそっちに行くから)と言って、事務所を飛び出した。-----------------