先生その4

聖域ともいうべき学校内で、秘かに二人の職場不倫は続けられた。しかし、「しのぶれど色に出にけりわが恋はものや思うと人の問うまで」というとおり、二人の仲は、校内では周知のこととなっていった。僕は考えた。二人はそのままの状態を継続すればどうってことは無かった。まあいずれどちらかの配偶者の知るところとなって、ひと騒動になるだろうが、いずれも知識レベルは高く、それなりに立場もある。ましてや、男性の家庭は、同じく神奈川県の中学校に勤務する妻との間に、三人の子供があり離婚など決定的な選択はしないだろう。

しかし、何をとち狂ったか男の先生がこんなことを言い出した。「どうしても君と結婚したい。君が毎日夫の下に帰ることを考えると気が狂いそうだ。僕も離婚するから君もご主人と別れてくれ」地方出身で、堅く生きてきただろう彼女は、めんえきもない暫く考えた後、医者の夫とあっさり別れてしまった。男の先生は大喜びして、自分の家と学校の間の行き来するのに都合の良い場所に彼女を住まわせ、毎日通っていたが、「僕も離婚がほぼ決まりそうだから」と言って、或る日、身の回りのものを持って、以来同棲が始まった。

女性にしてみれば、願ったり叶ったりで、こちらも大いに喜び、以前にも増して蜜月の日々に酔いしれた。やがて、彼女が妊娠、「どうせ結婚するんだから生んでくれ」と言う男性を頼もしく思い、高齢出産で生まれてきた子が今事務所で大人しく絵を描いている2歳の女の子である。しかし、男性は一向に離婚せず「どうなってるの」と聞く彼女に対し、「大丈夫、今弁護士同士で話し合いが進んでいるから」とか「女房が金銭面で納得しなくて」等と、言い訳ばかし言う。悪いことに、赤ちゃんは虚弱体質で、喘息が酷く夜泣も半端じゃないうえ、しょっちゅう救急車のお世話になって入院を繰り返す状態で、男性の求めにも気持ちよく応じられない日が続いてしまった。ーーーー