カーネーションその13

昨夜も良く寝れた。正午ごろ顧問弁護士が來所の予定、そのあと、14時に古い依頼人の老夫婦がいらっしゃる由。調査は5~6年前に終わっているが、以来何かとご相談を頂き、僕も出来る限りのことをさせてもらっている。やや、自閉症気味ではあるが、真面目に働いていたご長男が、得体の知れない女性にひっかかり遂には家出してしまった。女性は、ゲーセンでたまたま知り合った男性が、その人の実家を訪れてみるとなんだか裕福そうに見え、「玉の輿」を目論見しがみついている状況である。
この老夫婦や二人のお姉さんたちが猛反対するわけは、相手の女性の素性にある。まだ40歳ぐらいだが、四人の子持ちであり、うち三人は父親の氏名など不詳。恐らく女性自身も良く分かっていないだろう。婚姻して出来た子供は、女性のミスで死亡。夫は行方不明。したがって、戸籍上は婚姻状態で、仮に、老夫婦のご長男との間に子供が授かっても「私生児」ということになり、勿論「認知」も出来ない。
そんな状態で、今日はどんなご相談だろう。コナンも忙しい。

さて、老母から大金をせしめたマルヒこと山本はその後どうしただろうか。現金を見せられた真理子は「やっぱり私の思った通りの頼れる男性だ」と、有頂天になっているに違いない。10万円のお金を渡してくれるときさえ「何に使うんだ」とか「経営を合理化しなさい」などと、顔を見れば説教ばかりの口うるさい人よりうんといい。なんて思っているのだろう。

週に1回か2回、銀座の会社に依頼人を訪問する僕も、調査の報告と言うより人生相談に乗っているような錯覚にとらわれる時がある。昨日も、「もし、福田さんだったらどう始末をつけますか」と質問された。僕は、(社長より少し年上のようですから老婆心まで)と前置きして、(僕なら熨斗をつけて山本にあげます)そう、心にも無いことを言ってじっと依頼人を見つめた。依頼人はうつむき加減に自分膝に置いた両手を眺めていたが、少し照れくさそうに「僕が女々しすぎるのかもしれませんね。」嘆息交じりにつぶやいて、しばし瞑目した。

もう調査と言っても出来ることは限られていた。マルヒの尾行は続いたが、調査員が失笑するばかりで、少なくともマルヒを評価できるような事実関係には行き着かなかった。マルヒは二人兄弟で、6歳年下の実弟が家業を継いで、父親の時代から見ると飛躍的に業績を伸ばし、毎期の決算も黒字続きである。グループ会社をあわせると200人を超える従業員を抱え、更に右肩上がりに推移していた。10数年前親子三人で相続したのであろう、本宅の豪邸及び敷地内に建つ2棟のマンションは、母親名義になっており、弟は、会社の株式のほか、車両や資材置き場となっている広大な更地や小ぶりのマンション等を相続していた。いっぽう、マルヒ名義の不動産は皆無で、おそらく、その時得た現金や不動産は全て使い切ったのだろう。弟が経営する会社の一つに資産管理を目的とするものがあり、その中に、かってマルヒの名義だった土地が街金に移り、その後、弟が代表を勤める会社の所有になっているものがあった。資産価値があると考えたのか、債権者が悪質なので後難を恐れて整理したのか、いずれにしても、権利のある25パーセントを使いきり、老母の蓄えを当にして生きている。
しかし、考えようによっては、数年後、母親がなくなった時、再び相続問題が発生し、今度は、50パーセントの相続権があるわけだ。はは~ん。マルヒはこれを期待して真理子に大法螺をを吹いているんだな。と推測した。数日後、「真理子が新車に乗ってきました」と、依頼人から告げられた。BMW350で600万円ぐらいする高級車である。しかし、後日聞いたところによれば、真理子名義でローンを組み、マルヒは諸経費のみ現金で払ったらしい。---------