探偵日記 11月26日月曜日曇り
朝5時起床。タイちゃんを迎えに行き散歩に出る。まだ雨は降っていない。ところが、タイちゃんの歩きが良くない。健康的なウンチを4回したので、(帰る?)って聞くと返事をする代わりに、さっさと我が家のほうに迂回し、約35分2500歩で今日の散歩が終了した。奥さんは、さっきと同じ、気持ちよく寝ている。ああ、今日も朝ごはんは無いのかな。と思ってたら、6時過ぎ、タイちゃんを連れて散歩に行こうとしたので、(もう終わったよ)と言ってやると「まったくタイちゃんは嘘つきなんだから」と言う。まるでまだ行っていないように、散歩をせがんだらしい。(それは違うよ、ご飯をくれって言ってるんだよ)といい、僕はまたベッドにもぐりこんだ。
心配は杞憂におわり、8時前朝食にありついた。そのまま仕度をして事務所へ。-------
あの橋から その2
希望通り上京を果たした末子は、就職が決まった会社の寮に入り、4月1日、ホテルの宴会場で開かれた入社式に臨んだ。時は、バブルの真っ最中、最初から華々しいスタートをきった。末子は経理部に配属されたが、同時入社の女子社員5名とともに、上司の部長や課長から誘われ、連日食事会、その後、バーやスナックに付き合わされカラオケに興じ、帰宅は何時も午前様だった。
学生時代、成績は中の上、特に目立つことも無い極く普通の女子だったが、いざ、仕事をしてみるとずば抜けた能力を発揮し、部内で重宝された。性格は穏やかで、同僚と口論するとか、上司に反抗することも無く、無難にOL生活をこなした。一方、身長160センチ、やや細身に属し、決して美人ではないが、嫌味の無い顔立ちは周囲の男性達に受け入れられ大いに可愛がられた。
入社以来5~6年続いたバブルもあっという間に終わって、生活に平穏が戻ってきた頃、大学時代に知り合い、何となく続いていた1歳年上の彼と結婚した。これで、四方姓と決別し、(加納末子)となったが、末子もこの新しい名前を気に入った。勤務先は、いわゆる壽退社した。入社時に入った寮も1年ほどで出ていたので、その頃には、都心の小ぶりなマンションで暮らしていたが、結婚生活もその部屋で始め、翌年長男をもうけた。名前は、自分の苦い経験から熟慮を重ね、将来、外国でも通用するようにと、(翔)と名付けた。振り返ると(あの頃が一番良かった)その後、末子は周囲にこう述懐したという。
数年は専業主婦で過ごした末子だったが、夫の雅之が勤務する会社が倒産し、再就職したものの大幅に収入がダウンしたこともあって、翔が保育園に入ったのをきっかけに就職活動を開始。間もなく金融機関系列の会社に再就職できた。夫との生活は概ね満足できるものだったが、もう子供は出来ないだろう。とも思い、新しい職場で意欲的に働いた。雅之のほうも、自分が末子に渡す給与だけでは生計が成り立たないことも充分承知しており、退社後アルバイトを始めるなど、夫としての自覚を示し、そういう夫の姿に感謝した。
ところが、もう子供は出来ないだろうと思っていた末子だったが、6年ぶりに妊娠し、今度は女の子を授かった。改めて生活設計を練り直さなければならなくなった加納夫婦だが、末子を思わぬアクシデントが襲った。----------