探偵日記 12月25日火曜日晴れ
イブの昨夜は、お定まりのステーキとワイン(僕は、ビールと焼酎)でディナー。更け行くゆく初冬の一夜を楽しむ。今日は3日ぶりにタイちゃんの散歩。家を出たところで他の犬に会い大喧嘩、勿論、我が家の躾の悪いタイちゃんが全面的に悪いのだが、喧嘩の興奮を引きずってもうダッシュ立て続けに3回ウンチをして、その後2回計5回もされた。1時間歩いて帰宅。少し横になって事務所へ。天気晴朗なれど金が無し。----
あの橋から その24
末子が待っているテーブルに音も無くやって来た上司(これからは、ちゃんと名前で呼ぼう。彼の名前は、永瀬辰夫。その名の通り、昭和27年生、辰年)永瀬は、末子の顔を見てニッと笑いながら席に着く。「でもまあ良かったじゃあない。一般常識では考えられない金額だしね。失礼だけど、ご主人の収入を考えると慰謝料なんて100万円がいいとこだし、これからサインさせる養育費だって、貴女に収入があるから4万円程度だよ。まあ、何と言ってくるかわからないけど、余程離婚したいんだろうなあ」と、感慨深げに言う。末子は、夫をけなされてちょっぴり不満だったが、だからといって、永瀬を憎く思ったわけではない。
とりあえず、末子が送った離婚の条件を二人は丸呑みした。市村かおりは夫のことをそんなに愛しているんだろうか?夫は一文なしである。したがって、振り込まれた2000万円や、今後の支払いも彼女が主になって履行するはずである。(あんな男の何処がーー)と思いながら、末子は何となく可笑しくなって、下を向いて含み笑いした。永瀬が目ざとく見つけて、「末ちゃん何が可笑しいの」と聞いてくる。(ううん、なんでもない)と応じながら、(だって、あの二人がどんな顔して相談し合っているのかと思うと)と言いながら、こんな話を他人事のように言える自分に驚いていた。永瀬も、「全く、末ちゃんは、今鳴いたカラスがもう笑う」だよね。なんて冗談を言いながら二人はさも可笑しそうに笑いあった。普段は大人しく、口を開けて笑うことのない末子だが、周りの客が見返るぐらい声を出して笑った。
喫茶店を出て、やはり何時もの居酒屋で食事をする。今日はこうなりそうだったから、子供たちの夕飯は作っておいた。先に帰ってくる長女は、少々アバウトなところがあるが、チンするぐらいは出来るし、妹とは真逆で几帳面な長男が後片付けもしてくれるはずだ。(最近ちょっと不良ママになったかな)実際に、永瀬に相談し、時々外で会うようになってからの末子は、何だかんだと理由をつけ家を空けることが多くなった。ある時、長女に(ママ今日ちょっと会社の飲み会があるから遅くなっていい)と言ったら、長女は、明らかに不機嫌な顔で、えーと言って末子を睨んだ。しかし、もともと天真爛漫な子で、数分もすると、「じゃあママ帰りにアイスお土産ね」と言って、快く了承してくれた。
その長女は、高倍率の試験に合格し、中学から私立に入ることが決まっている。あとは、長男のセンター試験の結果だけである。大事な時期に家庭が乱れ心配したが、その後、人が変わったように猛勉強している。多分大丈夫だろうと安心していた。末子は最近感じることがある。夫には去られたが、(災い転じて福来る)って、こういうことなのかも知れない。子供たち二人も何となく肝が据わったふうだし、何より、末子自身幸せ一杯である。夫って、案外疫病神だったんじゃあないかしら。と思ったところで、また、得たいの知れない至福の笑がこみ上げてきた。ーーーーーーーーー