あの橋から その4

探偵日記 11月28日水曜日

今日は少し寝坊して5時15分に散歩に行った。タイちゃんも起こさないし、奥さんは相変わらずぐっすりとお休み。それでも、散歩から帰った時には起きてきて、8時の朝ごはんにはありつけた。ところが、再びベッドに入ったらすっかり寝込んで、色んな夢を見た。目が覚めたが続きを見たくて目を閉じたら夢の続編を見ることが出来た。

今日は事務のたかチャンがお休みなので11時に出た。夢が正夢ならば、今日あたり新しい依頼人が訪れるはずである。(笑)



あの橋から その4

数日経って土曜日の夜、夫の説明はこうだった。「彼女はバツ一で子供もいる。その子のことで相談に乗っているうち、ついそんな関係になってしまった。勿論、君と別れるつもりはないし、彼女に結婚してあげるなんて約束もしていない。必ず清算するから許して欲しい」じゃあ、私に電話してきたのはなんなの?非常識も甚だしい。貴方はそんな程度の女性と付き合って、仮に、離婚したいって言ってもも応じませんから、それと、今後私に隠れて、ズルズル付き合うようなら相手と貴方に慰謝料を請求しますから。末子にしてはかなりの迫力で言ったつもりだったが、夫のほうは、妻がすんなり承知してくれたと思い、その夜、久しぶりに末子のベッドに入ってきた。

末子は、どちらかというと穏やかな性格で、どんな場面でも激昂したりはしない反面、白黒をはっきり決めなければ気がすまないところもあって、数日は夫の帰宅時間や言動に注意を払っていたが、生まれたばかりの長女の夜泣が激しいことや、小学校に入学したばかりの長男の世話で、次第に夫の様子を観察することも失念した。夫の雅之は妻の末子が言うのもなんだが、見栄えも良く、優しいので、周囲の女性から好感を持たれ、結構誘惑も多いらしかった。その後も、時々、(あれっ)と思うことも有ったが、末子なりに、(家庭を捨てるほどの勇気は無いだろうし、そんな愚かな人ではないだろう)と考え、とりあえず夫を信じることにした。

茜と名づけた長女もオムツが取れ、加納家に平穏が戻った頃、夫に、前々から漠然と願っていた希望を言ってみた。末子は大の犬好きである。それも、人気のある犬種ではなく、柴犬みたいな、雑種に近い犬を好んだ。ただ、夫や子供も賛成してくれたものの、ペットショップで買ってくるほどの経済的な余裕もなく、どうしたものかと思案していた時、(里親制度)のあることを知り、早速その会場に行ってみた。里親制度は、飼い主の都合などで、保健所に保護され、貰い手が無ければ殺処分される運命の犬を救う目的で、中には、複数の犬や、猫を連れ帰る人もいるらしい。末子は、最初から二匹や三匹を飼うことも出来ず、この日、一匹のメスの豆柴を引き取って帰宅した。

家族会議を開き、どんな名前にしようか話し合った結果、(花子、はなちゃんと呼ぶことに決まった)当時、花子は2歳ぐらい。前の飼い主がどんな可愛がり方をしたか分からないが、花子は加納家になかなか馴染まなかった。末子は(きっと辛い経験をしたんだろう)と思い、三人目の子供のように愛し、夫や子供たちも、僕と寝る、いや俺と寝よう。などと、取りっこするほどだった。末子は、そんな日々を至福に思い、毎日充実した生活を送った。ーーーーーーー