あの橋から その20

探偵日記 12月19日水曜日晴れ

昨日点滴をして、いくらか楽になった。朝6時、散歩に出る。朝食のあと、風邪薬を飲んだせいかぐっすり寝てしまい、営業の電話で起こされたのが11時、慌てて仕度をし、事務所へ。途中新宿駅西口の万世で僕の好きなバーコーラーメンを食べる。少しぐらい具合が悪くても食欲はある。(笑)

食べながら、今日、弁護士事務所の忘年会は中華の店だったことを思い出した。



あの橋から その20

翌朝、探偵からメールが届いた。女性の住むマンションが判ったという。糸ちゃんが3日試みてくれたが判らなかったのに、やっぱり専門家は違うなあと感心する。探偵は、次に、女性の身元調査を進めますが、併せて、夫が女性の部屋に出入する場面を数回捕捉しておきますと言う。末子は(宜しくお願いします)と、返信する。

数日後、探偵から「お会いしたい」と、メールが来た。なんでも、報告書を作成するに当って、整合性の調整と今後の打ち合わせをしたい。らしい。日時を決め、先日の喫茶店は騒々しかったので、他の場所にしようということになり、末子が渋谷まで出て行きホテルのラウンジで会う約束をした。当日は、探偵と最初に会った時と同じで、氷雨の降る日だった。

ラウンジのテーブルで向かい合い、ウエイトレスがコーヒーを運んで去った後、数枚の写真を見せられ、まず、「ご主人ですね」と念押しされたものは、夫が女性のマンションから出てくる場面のもので、次に、末子が最も知りたいと思っていた女性のものだった。夫が出て行った後、女性が朝のゴミ捨てに出てきたところを、グッドタイミングで撮影している。自分と同じ年齢だろうか、背が低くやや小太りのその人は、パンツに派手なブルゾンをまといカメラのほうを見ていた。

末子は少し怖くなって、(この人、写真を取られているのを気づいているんじゃないですか)と、聞く。探偵は笑って「そんなことは有りません。調査員は、フイルムのかかった車の中から撮影していますし、まあ、彼女は見かけない車なのでちょっと見たのでしょう」と言う。(夫が、私や子供たち、20年の結婚生活の歴史のある家庭を投げうってまで好きになった相手がこの人なのか)末子は容易に信じられなかった。

相手の名前は、(市村かおり)年齢は末子より2歳年上で、夫とは1歳違い、婚姻歴の無い単身者で、勿論子供もいない。ただ、若干の資産はあるようだ。と、探偵は言う。末子は、え、この女性が本当に夫の相手なの。という一点に思考が捉われ、探偵の説明を上の空で聞いていた。ゴミを捨てたあと、マンションの玄関に戻ってゆく後姿は、見るからに中年の(オバン)である。ブルゾンの背中にミッキーマウスの刺繍があるのが痛々しく感じられるほどだった。(この人が本当に主人の相手ですか)末子が聞くと、探偵は、さらにもう一枚の写真を見せてくれた。そこには、市村かおりの部屋から出てくる夫と、見送る彼女の姿が鮮明に写っている。写真の下に、2011・11・28・05・22と日時が入っていた。夫が家を出ると宣言した3日前だった。--------